1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その1





「焦り」                               作・さつき


間に合わない!コックピットのスクリーンで、 クイーンラセツからの指示を待っていたベラミスは直感した。 傍らで不安そうに成り行きを見守っている副官のフェイに叫ぶ。 「離脱する!エンジン全開!!」 「でも、クイーンラセツ様の指示が・・」 「かまわぬ!!今 あのモンスターどもに襲われたら、この船は終わりだ。」 凛とした声に有無を言わさぬ響きがこもる。 「はっ」 フェイはすぐに手馴れた副官の顔にもどり全艦に伝令する。 ここは、大王星へ向かうオーロラ姫のルートを先読みした ベラミス率いるラセツ軍が待機する移動惑星。 もうしばらくすればクイーンコスモス号が姿を見せるはずだった。 しかし、そこが巨大モンスターの巣窟となっていたとは、 流石のベラミスにもわからなかった。 それはレーダーに反応しない、極めてやっかいなタイプの モンスターだったのだ。 幸か不幸か何百メートルもある竜形モンスターなので、 肉眼で見定める以外にない。 はじめ、ベラミスはこれこそ好機と捉え、このモンスター群を オーロラ捕獲に利用しようとした。 モンスターは攻撃を仕掛けなければ襲っては来なかったのだ。 ベラミスは予定通り、待機を命じた。 けれど、恐怖に刈られた1人の兵士がビーム砲を乱射してしまった。 その空間は殺気に満ちた。 ベラミスからの緊急退避の許可をラセツはしなかった。 それはそうだろう。レーダーには何も映っていないのだ。 それどころか、射程距離内に刻一刻と近づくクイーンコスモス号の 姿さえあると言うのに! 「艦内で何があったかは知りませんが、敵前逃亡は許しませんよ!」 ベラミスも悠長に説明している暇などない。 多分、コスモス号が自分からモンスターを攻撃することは 在り得ないだろう。 してくれればいいが、などと楽観視している場合でもない。 今は逃げねば。 その時、ふと新たな考えが浮かんだ。 私がおとりになってモンスターを誘導し、コスモス号を襲わせたら? この数だ、クーゴ達は3人で応戦にでるだろう。 その間に母艦を逃がし、オーロラを拉致する。 ・・危険だがむざむざ逃げ帰るよりはマシだ。 マシーンの足の速さにおいて、それが出来るのはベラミス機だけだった。 むろん、技術においても。 やってみるまで!! 「フェイ、b−36地点で待機。モンスターに気づかれた時は、 いいか、私を待たずに退避だ!」 「ベラミス様!」 言うやいなや、稲妻のように飛び出す。発砲し竜の気を集め、飛ぶ。 何しろ肉眼だけが頼りだ。一瞬の気の緩みが命取りになる。 速い!烏合の衆かと思われた竜が一斉にベラミスに襲い掛かった。 居た!!コスモス号だ。 案の上、急に出現したモンスター竜のおびただしい数に 3人のマシーンが次々と発進してきた。思うツボだ。 ベラミスはレーダーから逃れるため、急旋回し、 コスモス号の後ろに着いた。 目的を見失った竜達は、今度はサイボーグ戦士とコスモス号に 狙いを定めた。 遠くでクーゴの咆哮を聞いた気がしたベラミスはにやりと笑った。 補助エンジンが使われていないのを見て取ると、 自分のマシーンを頭から突っ込む。 丁度無線では、待機地点までたどり着いたことをフェイが告げていた。 ベラミスは、この時、無線を切ってしまった己の過失を、一生忘れないだろう。 オーロラに感知されないにようにと咄嗟の判断だったが、理由はどうあれ、 フェイの声に応えなかったのだ。 「フェイなら大丈夫だ。オーロラを捕らえてから改めて連絡してやろう・・。」 ベラミスはコスモス号のコックピットめざして矢のように走りながら考えた。 もうすぐ、私の理想が叶うのだ! そう思うと、心が躍り上がるように燃えて止まらない。 果たして。 彼女は、抵抗は受けたが首尾よくオーロラ姫を眠らせた。 初めから相手ではない。 外ではクーゴ達が苦戦している。 でも、良く見ると徐々に竜をコスモス号から引き離している。 「やるな。」その統制をとっているのは、どうやらジョーゴのようだ。 「ふん。クーゴより頭は良さそうだ。しかし!私はその上を行く!」 彼女はコスモス号を急発進、急上昇させ、クーゴ達もろとも竜の群れを 遥か下方に引き離した。 コスモス号ごと奪う気だ。 こんな時の為に、自分のマシーンは頭からめり込ませた。外れるもんじゃない。 「コスモス号が!!」 「クーゴ!姫にあんな操縦ができたのか!?」 「ジョーゴの指示じゃないのか!?」 そんなサイボーグ達の動揺に関係なく、竜は次々と襲ってくる・・・! 「殺しちゃ、いけないなんて!出来るかよー!」 やけくそともとれるクーゴの叫びが宇宙空間に木霊した。 移動惑星の航路外まで一気に飛び出したので、竜もここまで追ってくるとは 思えなかった。 「ヤツのスタークローなら、別だが。」 フェイを呼ぼう!後はラセツ星に向かうだけが、敵の追跡を阻むため 合流したほうがいい。 ベラミスが母船に連絡をとると、聞こえてきたのはフェイではなく、 更にその下の官職にいるマゼルの声だった。 「フェイはどうした!?」胸騒ぎが起こる。 「先ほど、ベラミス様の無線が切れてから、心配されまして・・。あの・・。」 「歯切れが悪い!何だ!?」 「後を、追われました。とめたのですが・・。」 「何だと!?」 実は、命令違反をして竜にビーム砲を乱射し、この危機の突端を作ったのは、 フェイの妹だった。 本来なら、その場で処刑されていても文句は言えない。 が、ベラミスは、地下(と呼べるなら)に監禁しその鍵をフェイに 預けただけだった。 そして、クイーンラセツに「私のミスで」と報告した以後全てのことを やってのけた。 フェイが命がけでベラミスを救おうと思っても、無理からぬことだった。 フェイ姉妹はラセツ軍団の中でも、野心より忠誠心の強い勤勉な兵士だった。 日々、戦闘の中にあっても心安らぐような何か素直な素質を持っていた。 だから、厳しい訓練にもよく耐え、成長した。フェイを副官に任命したのも、 今日妹を初陣させたのもそこを見込んだベラミスだった。 そう、初陣なのだ。その非はむしろ上官である自分にある。 その上フェイまで、私を心配して単身、後を追ったと云う・・! 以前。 ベラミスはやはりコスモス号に潜入し、オーロラ姫を捕らえようとして、 自分が女であることを見透かされ、図らずも狼狽し失敗した経験がある。 それで今回は早々に麻酔銃で眠らせたわけだが、今はそれを後悔した。 彼女の力であのモンスター化した竜が元の害のない姿にもどるなら、 そうして欲しい!それで、フェイが助かるなら!! 昏々と眠るオーロラ姫を見下ろし、ベラミスはつぶやいた。 「又、  あなたの勝ちだ・・。」 ベラミス機は炎のようにモンスター竜の荒れ狂う空間へ、舞い戻った。 「ベラミス!」 驚いたのはクーゴ達だった。 「クーゴ。もしかするとさっきのコスモス号の操縦は・・・」 「・・まさか!!」 「早くヤツごと攻撃しちゃおうぜ」 「待て!ハッカ。よく見ろ。何か探してる、おれ達がターゲット じゃなさそうだ。」 「あ、危ない!・・・ちょっと話をつけて来る!!」 「おい!クーゴ!」止めようとするハッカに、ジョーゴが軽く首を振った。 「・・行かせてやれよ。」 火を噴く竜の猛攻の前に、一瞬隙を突かれたベラミス機を別の竜が襲う。 刹那、それをクーゴのアストロ棒が防いだ。うねる首をかいくぐる。 「平気か!・・コスモス号を、姫をどうした!?」 「オーロラは安全なところに居る。今はこのモンスターを 何とかするのが先だ。」 ベラミスは焦っていた。フェイが着てしまう前に決着をつけたい。 「そいつの言うことなんかウソかもしれないぞ!」 ハッカが割り込む。いや、ベラミスは嘘は言わない、 口には出さなかったが、クーゴは了解した。 「何とかするって言っても、手はあるのか!?」 ジョーゴだ。サイボーグ戦士達は、自然に1箇所に背後を埋める形で集まった。 「ない。でも、こちらから攻撃しなければ、こいつらは大人しかったんだ。」 「そうか!おれ達が逆に怒らせてたってわけか!・・・なら、答えは1つだ。」 ジョーゴはすばやく何事かを計算する。 「どうするんだ!?」 アストロザンダーを放ちながらクーゴが聞く。 「この空域には移動惑星が沢山ある。そこに隠れて、 一切の攻撃をやめるんだ。」 「それじゃ、やられちゃうよ!」 情けない表情のハッカにジョーゴが重ねて言う。 「大丈夫なはずだ・・。この生物は元は首長竜といって草食なんだ。 落ち着けば戦意を無くして、巣にもどるはず。」 4人のサイボーグ戦士達はそれぞれ2手に別れることにした。 ジョーゴとハッカ。クーゴとベラミス。 「いいか、一斉にGOだ。惑星の影に入ったら、 武器反応をなくすためエネルギー源を全てOFFだ。・・あとは待つしかない。」 ジョーゴの説明に3人とも眼でうなづく。クーゴが息を吸い込んだ。 「1、2、3.GO!!」 スタークローの後に続く。どれくらいの時間で大人しくなってくれるんだろう? 一瞬の迷い。 しまった!金の轟音とともに竜の尾が機体をかすめた。 「ベラミス!急げ!」 わかっている!しかし、思うように反応できない。 微妙に狂う、勘が。・・何故だ!? 猛攻を繰り返す竜は、はじめに乱射をうけた一匹だった。 執拗に襲いくるスピードに、かわすだけでは難が在りすぎた。 閃光が弾けバランスを失ったベラミス機に竜の比翼が命中する。 それを、体当たりで防いだのはフェイ機だった。 ひとたまりも無く落ちて行く! スタークローが飛び出す。隣の星から、 ハッカが援護射撃をしようとして、ジョーゴに止められている。 間一髪、爆発の前にクーゴがフェイを救い出した。 落ちるフェイ機に惹かれ、竜たちがその後を追い始めた。 もう攻撃をやめたこちらの存在は、気にかけない。 スローモーションのように過ぎる風景の中で、 ベラミスはあの竜の傍らに子竜を見た。 「フェイ、しっかりしろ!死んじゃだめだ!」 移動惑星に不時着し、祈るような気持ちで応急処置を施す。 「・・ベラミス様・・ご無事で・・。」 重症をおったフェイはベラミスを見て、安心したように気を失った。 「すぐに、手当てしてやる・・。」 人の気配に顔を上げると、クーゴが。 「モンスターは、みんな行っちまった。・・その娘のおかげだ。」 「・・・・。」 「行けよ。」 「!」 ベラミスはカタがついたら母艦に報せるつもりだったコスモス号の位置を、 クーゴに教えた。 「今度 会う時は、敵同士だ。」 「わかってるよ。」 所詮。敵同士、なのだ。 ベラミスは、大事にフェイを抱え、ラセツ星に向かって発進した。 ・・・その胸でフェイは、まるで笑っているようだった・・。            ・・・・・・・・・・・・・・・・・・終わり・・・・



●2002・2・15〜2・27、
スタジン掲示板「くぃ〜んこすもす」に掲載されたものをまとめました。





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