銀河宇宙は無限程に広く、大王星までの道のりは、途轍もなく遠い。
                            絶体絶命、危機極まりない宙域もあれば、比較的平和な宙域もある。
                            が、ギャラクシーエネルギーの弱まりゆく今は、安全な場所は稀有である。
                            故に、運良くそのような所に巡り会った場合、
                            クイーンコスモス号はメンテナンスの為に数日間の停泊をすることにしていた。
                            
                            
                            「おい！ジョーゴ！もう、計算はいいから、これから先、ど〜すりゃい〜のか、
                            さっさと教えてくれよっ！」
                            
                            丈の短い緑の草の絨毯が、一面に広がる野原のど真ん中。
                            俄か作りのテーブルの前で、包丁を手にしたクーゴが怒鳴り声を上げた。
                            
                            「…まあ、慌てるな……急いては事を仕損じるってな、
                           大昔の地球人も言っている。正確な計量、分析こそが、
                           最上級の味を作り出す料理の極意なんだ。」
                           
                           最早、我慢の限界を越えそうなクーゴを制して、ジョーゴが答える。
                           手にしているのは、ご自慢の超高性能電卓……と……じゃがいも……。
                           更にテーブルの上には、人参、玉ねぎ、にんにく
                          しょうが、豚肉……ｅｔｃ……既視感な材
                          「……よ〜し、じゃ、コレでやってみようか……
                          え〜、１０人前のカレーライスを作るには、だなぁ……」
                          「はぁ？何で１０人分も作ンだよ。姫とオレとお前、それにハッカ……４人だろ〜が！」
                          「ハッカの腹が１人前で満足すると思うのか？」
                          「……おお！よしっ！納得だ！ンじゃ、早く、次言ってくれっ！」
                         　
                         クイーンコスモス号のメインシステムの自動クリーンアップ作業が
                         完了するまで、およそ１日。
                         人力でするべきことは、とりあえずもう無いので、
                         オーロラ姫一行は久々にのんびりとした時間を過ごしていた。
                         しかし、のどかな自然以外何もない星での休養は、
                         長時間に及ぶと退屈極まりないものとなる。
                         何の話が始まりだったのか忘れたが、
                         たまには野外で食事でもしてみようということになった。
                         どうせなら、オールドスタイルにチャレンジしようと、
                         姫とハッカは、近くの林に木の実を取りに出かけ、
                         残ったクーゴとジョーゴが、カレーを作ることになった。
                         
                         「……まず、玉ねぎだ……玉ねぎの皮を剥き、根の部分を綺麗に取り除く。」
                         
                         いつも自動調理機の恩恵に与っているため、二人とも料理らしい料理などは、
                         したことも無い。
                         唯一の頼りは、ジョーゴの電卓。
                         
                         「……出来たぞ……それから？」
                         「……ん〜、それを半分に切り、端から、３ミリの厚さにスライスだ。」
                         「はぁ？３ミリ〜？３センチの間違いじゃね〜んかぁ！」
                         「いや、３ミリで正しい。ほらよっ！」
                         
                         クーゴの疑問に答えながら、ジョーゴが差し出したのは、ものさし。
                         「無理だって！おめーやってみろよ。んな、神業できる奴がいたら、
                         俺は、頭を下げて即弟子入りするぜ。」
                         
                         クーゴは見るも危ない手つきでチャレンジするが、
                         ３ミリどころか、１センチ以下に切れたものすらない。しかも、大きさはバラバラ。
                         
                         「こんなの、適当でい〜んじゃね〜の。さっさっ！ばっばっ！ちゃちゃっとよ〜。」
                         「だ〜から、お前は、駄目だと言うんだ。やるからには、常に最高のものを求める。
                         パーフェクトを目指す。それが、芸術というものだ。」
                         「今作ってんのは、芸術じゃなくて、ただのカレーだろ。」
                         「クーゴ！それは、カレーに対する侮辱だ。
                         いいか、カレーというのはな、数ある料理の中でも、最も奥が深く、
                         最も崇高なる理念が昇華した、いわば、キングオブクッキングなのだ。
                         それをお前は……」
                         「はいはい、分かったよ。薀蓄は後で聞くから、
                         とにかくど〜やりゃあ、３ミリに切れるか、それを教えてくれ。」
                         「……それは知らん。電卓にも、その辺のデーターはインプットされていない。」
                         「あ゛のなあ゛〜」
                         
                         芸術だの崇高なる理念だのと言うモノは、さしあたって今は、何の役にも立たない。
                         クーゴは諦めて、ジョーゴに渡されたものさしを当てながら
                         地道に作業する方法をとることにした。
                         格闘すること３０分。哀しくも無いのに涙を流しながら、
                         なんとか指定通りに玉ねぎを切り終える。
                         その間ジョーゴは、カレーに使用する１００種類程の調味料を
                         コンマ２のレベルで正確に計っている。
                         
                         「オ〜イ！次だ！次！」
                         
                         涙を拭き拭きクーゴが先を促す。
                         
                         「……次は〜、玉ねぎより簡単だ。人参、１辺２センチの正立方体だな。
                         じゃがいもも、正立方体だ。こっちは１辺２．５センチだな。」
                         「……マジかよ！それ；」
                         「文句を言わない。姫の喜ぶ顔見たくないのか。」
                         「！！！」
                         
                         姫のことを持ち出されると反論の余地も無い。
                         口をついて出そうになる山ほどの疑問と文句を、
                         やっとのこと飲み込みながら、クーゴは調理を再開する。
                         そして、ジョーゴの指示通り、包丁を動かすこと２時間。
                         クーゴは、ようやっと総ての材料を切ることができた。もう、へとへとである。
                         
                         (こんなんだったら、スペースモンスターと戦ってた方が、なんぼかマシ；)
                         と、心の中で己の不運を呪いながら顔を上げると、
                         どうやらジョーゴも、調味料を計り終えたようである。
                         
                         「そろそろ、姫たち戻ってくるんじゃね〜の。ど〜すんだよ。こんなんで…」
                         
                         見事なまでに形の揃った、汗と涙の結晶を指差し、クーゴが問う。
                         
                         「ここまで、くれば後は、楽勝だ。
                         この鍋に材料を全部入れて……んでもって、調味料も投入っと……」
                         「あ゛〜っ！い〜んかよ！ここに来て、そんなアバウトで〜」
                         
                         止める間もなく総ての材料を鍋に入れてしまったジョーゴに、
                         クーゴが思わず大声を出す。
                         
                         「だ〜い丈夫。大丈夫！ほら、クーゴ、アストロボーを早く出すんだ。」
                         「はあ？アストロボーで何すんだ？」
                         「いいか、コレが最後の仕上げだ。
                         アストロボーの出力を限界ギリギリ、最小限に絞るんだ。」
                         「……こ、こうか？」
                         「よし、ＯＫだ。で、鍋のココ、いいか、このポイントだぞ。ココへ照射する。」
                         「ホントに平気なんだろうな？」
                         「クイーンコスモス号の自動調理機の熱源は電磁波だぞ。
                         アストロボーと原理は同じ。間違いはない。」
                         「どうなっても知らねえぞ！よ〜し、アストロ・ちょっとだけ・サンダーっ！」
                         
                         自身満々に言い切るジョーゴに押し切られて半ばヤケクソにクーゴが
                         アストロサンダーを発射する。
                         
                         (★△◆☆＆！＠→♪£※∀＄∽??∠ωφ◎¢＃♀∞∴♂≦＝≠℃￥±！！？？！！！)
                         
                         眩い光と共に、辺り一面を食欲をそそる匂いが被い尽くす。
                         カレー以外の何物でもない、アノ独特の匂い。
                         
                         「よし、もういいぞクーゴ！」
                         「……か、完成したのか？」
                         
                         アストロボーをしまい、クーゴが恐る恐る鍋を覗き込んだ。
                         クーゴの２時間の格闘が結実した美しい出来栄えのカレーが、燦然と輝いている。
                         どこからどう見ても、非の打ち所がない。
                         
                         「俺、感動したぜ！ジョーゴ。やれば、出来るもんだよなあ！」
                         「うんうん、コレは予想を遥かに超えた宇宙で一番のカレーだ。やったな！クーゴ！」
                         
                         思わず肩を抱き合い、互いの健闘を讃え合ってしまう。
                         
                         「よし、それじゃあ、記念すべきカレーの味見をしようじゃないか。
                         微調整は、必要かもしれんしな。」
                         「おおっ！しようしよう！んじゃ、いただきマ〜ス！！！」
                         刹那！
                         クーゴの動きが、停止した。
                         
                         「ど〜したクーゴ？」
                         「！……ス、ス、スペースモンスター……」
                         「何っ！どこだ！奇襲か！」
                         
                         クーゴの言葉に、ジョーゴが、慌てて辺りを見渡す。
                         
                         「………も、……逃げ出す……モノ凄さ……！！
                         ★△◆☆＆！＠♪£※∀＄φ¢＃♀∞∴♂≦＝≠℃￥±！？！！！」
                         
                         後は、もう言葉にならない。クーゴは、脱兎の如くその場を走り去っていた。
                         
                         「はぁ？何なんだ？クーゴの奴、じっとしてられ無いほど、上手いっ！！
                         ★△◆☆＆！＠♪£※∀＄φ¢＃♀∞∴♂≦＝≠℃￥±！？！！！」
                         
                         一口が胃に到達する前に、ジョーゴは、その場に卒倒していた。
                         
                         
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                         「クーゴさん、ジョーゴさん。このカレー本当に美味しいですわね。
                         ねえ、ハッカさん。」
                         「ホント、うめ〜！フガッ！ウグッ！見直したぜ、お前ら！ムグッ！」
                         「…………そりゃぁ、良かった。……なぁ〜、ジョーゴ。ハハハハハハッ；……」
                         「！ああ、そうだなクーゴ！姫のお口に合って、
                         本当、苦労のしがいが……あははははは……」
                         
                         穏やかな午後の日差しの下で、楽しい食事が始まった。
                         姫とハッカが、美味しいと絶賛するのは、
                         クーゴとジョーゴのスペシャルカレーでは、勿論無い。
                         アレから慌てて用意した、クイーンコスモス号の非常用食料のカレーである。
                         アノ恐ろしい悪魔のような代物は、厳重なる封印を施して、
                         宇宙空間へと葬り去った。
                         
                         （…もう二度と…決して…絶対に…ジョーゴの言う通りに、料理は作らない！）
                         （…金輪際…再び…何があろうと…料理の本は信用しない！）
                         と、固く心に誓った二人であった。
                         
                         
                         合掌







                       ●み〜めさんのＨＰ「しゅーるな部屋」
                       （「スタジンの間」）より転載させて頂きました。　２００２・０９・２６
 





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