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二人の間にしばらく沈黙が流れた。
クーゴは、静かに席を立ち上がった。
「星が綺麗だ。外に出よう」
クーゴに促がされ、マリアも後に従う。
夜風が優しく二人のもとを吹き抜けて行く。
「マリア」
満天の星空を見上げながら、クーゴはしっかりとした口調で言った。
「俺はずっと、姫のそばにいるよ」
クーゴの髪が風に揺れる。
「時がどんなに経ってもこの気持ちは変わらないし、
遠く離れるほど近くに姫を感じるんだ」
そう語るクーゴの背中がたまらなく切なそうで、
マリアの目から、また涙が流れた。
「一緒に居られないからこそ、永遠に想い続けられるのかもしれない。
・・・そして、姫もきっと、同じことを考えてる・・・そんな気がするんだ」
クーゴは振り返らなかった。もしかしたら、クーゴも泣いていたのかもしれない。
マリアは、もうそれ以上何も聞くことはしなかった。
「本当にもう行かれるんですか、クーゴさん」
“Planet Blue”の前に呼んだスター・クローに、
クーゴは乗り込もうとしていた。
「せめて今夜くらい、この星で休んで行かれればいいのに」
マリアは、最初に戻って優しく笑いかける。
「ありがとうマリア。長逗留が向かないタチなんでね。
本当に世話になったよ。料理、サイコーだった」
「またいつか、いらして下さる?」
そう言うマリアの瞳は、どこか淋しげだった。
「ああ・・・、また、いつか」
指でサヨナラの合図をして、ヘルメットの向こうからクーゴが笑った。
「スター・クロー発進」
宙に上がり、一陣の風のようにスター・クローは飛び立った。
星空のひとつになって消えるまで、
マリアはずっとその姿を見守り続けていた。
そして、思った。
― オーロラ姫は、本当は誰よりも幸せかもしれない ― と。
クーゴは考えていた。
10年前の俺なら。
心の中でどんなに想っていても、人に口に出してそれを伝えたりはしなかった。
マリアが聞き上手だったのか、それとも俺が少し年をとって
気弱にでもなったせいなのか。
でも、どちらでも構わない。
あの星に降りた時から、気持ちをごまかすのは無駄な労力だと直感した。
少し楽になりたい。はじめて、そう感じた。
― Planet Blue ―
あの青い星の中の、小さな店。
なつかしい昔を知っている娘が居て、俺のことを気にかけてくれた。
願っても決して叶わないことがある。
そんなことはわかっている。でも。
これでいい。気持ちは変わらない。
気付かせてくれてありがとう、マリア。
感謝するよ。
光の矢になって飛び続けるスター・クロー。
先は、まだはるか遠い。
●2002・9・30更新
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