イラスト・南十字あたる
「願い〜亡くしてはいけないもののために〜」 作・み〜め
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「……ご苦労でしたね……クーゴ……」
クーゴが、研究所のキティ博士の私室へ呼ばれたのは、
大王星から帰還して、1週間程たった時だった。
長く激しい戦いで傷ついた体を検査するためという口実で
メディカルセンターに入院させたのは、博士の心配りからだった。
あちらこちらのセクションで、それこそDNAのレベルまで
精密な検査と治療を受け、余計なことを考える暇も無いほどに忙しかった。
「ドッジ助教授が、先ほど、貴方の体の検査結果の報告書を届けてくれました。
予想以上に過酷な旅だったようですね。
ですが、私達も、ただ祈るだけではありませんでした。
新たな技術の開発に全力を尽くしてきました。
より人間らしい体に、より強い力を備えた体。
最初は違和感があるかもしれませんが、貴方なら、すぐに慣れると思いますよ。」
そう静かに言ったキティ博士の前に立つクーゴの姿は、
強化プロテクターで武装された見慣れたそれではなかった。
白いカッターシャツにジーンズ姿。ジーンズと揃いのジャンバーを羽織っている。
「……何か、頼りね〜感じだけど、まあ、昔に戻ったと思えば、い〜んか……」
照れくさそうに頭を掻きながら、クーゴが答えた.
頼りなく感じるのは、そのせいばかりではないのだろうが……。
「これからは、必要な時に、その腕のスイッチを押せば、
収納されているプロテクターが装着できますよ。
詳しい使い方は、ドッジ助教授から聞いていますね。」
「はい。昨日から耳にタコが出来るほど。」
「そうですか……それなら、私からの説明はもう不要ですね。」
ふっと表情を和らげ……
それから、急に、真顔に戻り、キティ博士がクーゴに向き直った。
「……ありがとう……クーゴ……心から礼を言います……」
真っ直ぐにクーゴを見つめていた博士が、深々と頭を垂れた。
「……えっ!ああ、もう参るなあ、そんな改めて言われると、
礼なら、もう大王星から帰ってから何度も言われてるし……
それに……俺1人じゃなく、ジョーゴもハッカもいてくれたし、他にも……」
クーゴは、突然の博士の姿に戸惑いを隠せない。
「……このお礼は、博士としての礼ではなく、オーロラの母としてのお礼です。
それに、私が言いたいのは、単にオーロラが、
無事に大王星に着いたということにではないのですよ。
……ありがとう。クーゴ。オーロラの心を守ってくれて……」
「…………!!…………」
「地球にいた頃のオーロラは、純粋無垢ゆえに、
あまりにも繊細で傷つきやすい心を抱えていました。
私が、この過酷な旅で、最も恐れていたのは、あの娘の身の安全より、
心の安定でした。何一つ犠牲を払わずに、大王星へ行ける筈もないことは、
明白な事実。その事実に直面した時、オーロラの心が壊れてはしまわないか、
それが何よりも気がかりでした。
けれど……クーゴ、貴方が、その闇の部分を背負ってくれました。
オーロラが、気づいていない辛いことが、何度もあった筈です。
いいえ、私には分かります。
だからこそ、オーロラは、あの星にいるのですから……」
キティ博士が、手にしていたコントローラーのスイッチを入れる。
スクリーンに映し出されたのは、美しい光をまとって煌めく大王星。
その光には、全てのものを慈しむ希望の力が宿っている。
「……クーゴ、貴方のこれからは、貴方が決めなさい……
さあ、その戒めを解きましょう。成長した貴方にはもう必要のない枷でしょう……」
クーゴに近寄り、博士が頭の輪に手を伸ばした。
「……博士!外さないでくれっ!」
反射的に退いてクーゴが叫んだ。
「……クーゴ?……」
訝しげに見つめるキティ博士の目に映ったのは……
宇宙一の暴れん坊でも、宇宙一の勇者でもなかった。
ただ一途なばかりの……青年……
「ノノそれが、貴方の選ぶ道なのですね。クーゴノノ」
穏やかに微笑んで博士が、クーゴをそっと抱きしめた。
「……キティ…博士?……」
「忘れてはいけませんよ。貴方も、私の大切な息子ですからね。
さあ、いってらっしゃい。スタークローも性能アップしてますよ。」
ポンと背中を叩く手が暖かい。
「!!!」
弾かれるようにクーゴが顔を上げる。
そして、躊躇っていた最後の一歩を踏み出す勇気をくれた母を見る。
瞳が笑っている。
クーゴの瞳にも、いつもの元気が戻ってくる。
動き出さずには、いられない。
「今度は、鉄砲玉じゃないからな!行ってきます!」
飛び出していくクーゴの後姿を見つめながら、博士は小さく呟いた。
「今度は、宇宙で一番の幸せ者になるためにね……」
●み〜めさんのHP「しゅーるな部屋」(「スタジンの間」)より転載させて頂きました。
2002・10・09
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