1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その15





「誓い〜消えることのない想いのために〜」   作・み〜め

どんなに危険な場所に身を置いても、 どんなに無謀な戦いに望んでも、 決して死を恐れたことはなかった。 そんな彼が、たった一度だけ死を覚悟した。 ただ1人の女性(ひと)の未来のために……。 危機迫る母星(ほし)へ 炎の星となって飛び続けたあの日 死と向き合うことが、どれほどの意味を成すのか 彼は、初めて知ったのだ。 キティ博士から託された新型のエネルギー伝導回路の部品を届けるため、 大王星へと向かったクーゴは、途中ジョーゴの暮らす水の惑星へと立ち寄った。 初めて降り立った時には、名ばかりだった水の惑星も、 ギャラクシーエネルギーの復活と共に、元の美しい惑星に戻りつつある。 「相変わらず、忙しない生活を送っているようだな、クーゴ。」 久々に会ったというのに、すすめられたお茶にすら手をつけようとしない友人に 苦笑しながらジョーゴが言った。 「まだ任務の途中だからな。こんなトコに寄り道してンのが、 ドジ助教授に見つかったら、また説教だ。 最近、年のせいか一段と煩いのなんのって……やれ、宇宙の平和を守る勇者の心得だの、 騎士の嗜みだの……ンなモン、この俺に求めんなっつ〜の。」 やれやれと溜息をつきながらも、任務のことは忘れていない。 以前のクーゴを知るジョーゴにとっては、驚くべき成長である。 「……で、その大切な任務の最中のお前が、こんなトコにわざわざ来たのは、 どんな用事なんだ?まさか、俺の顔が見たくなったというわけではあるまい。」 茶化すように言いながらジョーゴは、クーゴの様子をこっそり伺う。 会う度に感じるのは、クーゴの内面の成長。 ……いや、それをして、単に成長と言う言葉で表現してしまっていいのかと、 疑念を抱くほどの変化…… 乱暴な口調、荒っぽい態度は、相変わらずと言えば、相変わらずなのだけれど、 しかし……。 「お前の顔は、ど〜でもいいが、電卓様には、お世話になりて〜んだ。」 「はあ?俺の電卓?研究所には、銀河一のスーパーコンピューターがあるだろうが。 それを差し置いて、コレがどんな役に立つって言うんだ?」 突然のクーゴの言葉に、驚きを隠せない。 「あんなのは、所詮、ただの馬鹿でっけ〜物知り図鑑に過ぎね〜。 人の心までは解らねえ。」 ボソリと呟き、クーゴは、ふうっと溜息をついた。 「何か厄介事でも起きたのか?まさか姫に?」 思わず身を乗り出し、問い詰め口調になる。 「……安心しろ。姫じゃね〜。俺の問題だ。」 「どっちにしろ、お前が、こんな機械にまで頼ろうなんて、只事とは思えんな。 とにかく何があったか話してみろ。」 はやる気持ちを抑えて、ジョーゴがクーゴを促す。 「……ギャラクシーエネルギーが復活して、スペースモンスターの脅威は去った。 ……だけど……俺は、気づいてしまったんだ。……本当に恐ろしいのは、人間だと ……姫の力を狙って、第2第3のラセツやギューマが、この先現れないという保障は どこにも無い。……そんな奴らから、俺は……姫を守っていけるのだろうか……」 「?!クーゴ、お前らしくない発言だな。今や、お前は、この銀河に右に出る者のいない、 名実共に銀河一の勇者と、誰もが認める男だと思ったが。」 クーゴの口から出た思いもよらない弱気な発言。 「……銀河一の勇者……そんな称号、何の役にも立ちゃしねぇよ……昔の夢に怯える、 こんな情けね〜俺に、ずっとずっと、姫を守るなんて任務……」 「クーゴ、お前、もしかして、大王星の警備隊員になるのか?」 「……ああ、しかも、ご大層なことに隊長様ときたもんだ……悪いジョークのようだ……」 再生したばかりの銀河は、まだまだ不安定である。 クーゴの懸念するように、ギャラクシーエネルギーの悪用を もくろむ輩がいないとも限らない。 そこで、銀河連邦議会は、大王星と新しい女王オーロラを、当面の間、警護するため、 大王星の宙域に警備隊を配備することを決定したのである。 その人選は難航し、戦士としての力量はもとより、人格、素養の面においても、 厳しく審査がされた。 ジョーゴやハッカの元には、無条件で、その任への誘いが届いたのだが、 故郷の星の復興を姫に誓っていた二人は、丁重にそれを辞退し、 代わりに緊急時の特別隊員としての待遇を得ていた。 確か、クーゴも、特別隊員の命を受けていたのではなかったか。 「どういう経緯でそうなったかは、聞いても仕方あるまい。 だが、何がそんなに、お前をらしくもない弱気にさせるんだ。」 「……それが、解からね〜から、お前んトコに来たんだよ。 何で、毎日、あの夢を見るのか、何で、こんなにも……死ぬのが、こえ〜のか…… お前の電卓なら、答を見つけてくれるかと思ってよ……」 すっかり冷めてしまったお茶を一気に飲み干し、クーゴは、 ようやく心の内をぶちまける。 正体の見えない不安……人生において、それは誰にも、度々訪れる、ごく自然なこと。 しかし、クーゴのそれには、何か深い原因があるようだ。 「一体どんな夢なんだ?お前ほどの修羅場を切り抜けた男を恐れさすのは?…… それも、姫を守ることでだ。」 とにかく、放ってはおけない問題だ。 信じられないと首を振りながら、ジョーゴが電卓を取り出す。 「……地球へ……帰る夢だ……」 「地球へ?」 「……ああ、俺は炎になっていた。地球の最後が先か、 それとも、俺の体が燃え尽きるのが先か……地球の最後が阻止できるなら、 俺の命なんてどうなってもいいと思ったはずなのに……」 クーゴの夢は、あの日のこと。 母なる星を救うため、星の海を流星となって駆け抜けたあの時、 彼は、確かに死を背負っていた。 それ故の………。 「……あの時は、夢中だった。それに、その後も、いろんな事が起きたから、 ずっと忘れていた……」 「何を忘れていたんだ?」 クーゴの言う、あの日を良く知るジョーゴは、電卓からその日のデーターを 引き出しながら尋ねた。 「……姫の……オーロラ姫の目だ……そうだ…… あの日の、姫の瞳の色が、俺の心を……」 「!!!!」 不意にジョーゴの電卓が計算を開始する。 「もし、あの時、俺が死んでいたら……姫は……どうなっていただろう。 それを考えた時、俺は……。姫を守るために、俺が本当にしなければいけないことは、 命を賭けることじゃない、生きぬくことだ……そんな、馬鹿げた答を否定して欲しいんだ、 お前の電卓に。でなければ俺は……この大切な任務をまっとう出来そうにない……。 姫を守るために、命を投げ出せと、答を出して欲しいんだ。」 祈るように言葉を吐き出したクーゴの前で、軽やかな音を立てていた電卓が、 計算終了の合図を告げた。 「……クーゴ……」 電卓の答を読み取っていたジョーゴが、深い溜息とともに、クーゴに電卓を差し出した。 震える手でそれを受け取って、クーゴが画面に目を落とした。 『現銀河ノ 安定ノ 為二ハ “ジャン=クーゴ”ノ 死ハ 回避シナケレバ ナラナイ  絶対事項ノ 1ツ デアル。』 「……馬鹿な!俺が望んでいたのは、こんな答じゃない!」 思わず立ち上がり叫ぶクーゴ。驚愕のあまり、それ以上の言葉が出ない。 「落ち着け、クーゴ。ちゃんと続きを見ろよ。」 クーゴの肩に手を置き、ジョーゴが、電卓のキーを押す。 チカチカと画面が切り替わり、答の続きが表示される。 『……シカシナガラ 死トハ 単ニ 肉体ノ 滅シタ 状態ニハ 非ズ。 心 滅バザレバ 死ヲモ 越エル 力トモ 成リウル。 ソノ 可能性ハ “ジャン=クーゴ”ノ 想イノ 深サニ 比例スル。』 「……!!!……」 「どうだ、コレなら、お前の望む答にならないか?」 「……俺の……想いの深さ?……」 「俺は、今のお前を見て、実は、凄く嬉しい。 死を恐れないということは、裏を返せば、命の重みが解らないということ。 出会った頃のお前は、単に姫の命を守ることだけが全てで、そのためには、 どんな犠牲を払ってもいいと思っていた。 そのことが、姫にとってどんなに辛いことだったか、気付いていなかっただろう。 だが、今のお前なら、解る筈だ。姫が想う平和の在り方が……。」 「……ああ……解る……それは、奇麗事かもしれない…… けど……俺は、やらなきゃなんね〜んだ。」 「そうさ。……悔しいが、この任務は、お前にしかできないからな。」 ジョーゴが、ドンッ!と、クーゴの胸を叩く。 叩かれた胸から、闇が晴れていく。 何もかもが移ろい易い世界の中で、たった一つだけ変わらないもの。 それを守るためなら、どんなことがあっても生き抜ける。 「すっかり道草しちまったな!ドジ助教授にバレる前に退散するぜっ! サンキュー!ジョーゴ。持つべきものは……って、やつだな。 今度来る時は、ちゃんと手土産持参でくるからよ!じゃあな!」 「おうっ!期待して待ってるからな!姫によろしくっ!」 一条の光が水の星を飛び立つ。長く長く尾を引いて。 あの日の焼け付くような炎の星とは違う、暖かい光が煌めく。 『……ソシテ……“ジャン=クーゴ”ノ 想イハ 出会ッタ頃ヨリ  ズット タッタ一ツノ 光ニ 向カッテイル……故ニ……』 「……コレくらいの意地悪は、許されるよな……」 電卓のENDマークを見つめ、ジョーゴが、静かに微笑む。 見上げた空には、まだ、光が残っていた。 どんなに危険な場所に身を置いても、 どんなに無謀な戦いに望んでも、 決して生きることを諦めてはいけない。 生き抜く覚悟は、 ただ1人の女性(ひと)の未来のために……。 苦難の宇宙(うみ)を乗り越えた時 生と向き合うことが、どれほどの意味を成すのか 彼は、初めて知ったのだ。


●み〜めさんのHP「しゅーるな部屋」(「スタジンの間」)より転載させて頂きました。
2002・10・09

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