1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その17





「I.N.G」   作・みなこ

さざなみが聞こえる。 水の惑星は、変わらぬ青い美しさを湛えてクーゴを出迎えた。 「クーゴ!」 懐かしい声が響いた。下降して行くスター・クローを、ジョーゴが手を振って 待っている。 「ジョーゴ・・・!」 着陸するや否や、クーゴが飛び出して来る。相変わらずの光景だ。 「久し振りだなあ!クーゴ」 弾けそうな嬉しさでいっぱいになって、二人は駆け寄った。 「ああ、ジョーゴも元気だったか!?」 3年振りの再会だ。・・・あれから、3年。 大王星に辿り着いた日が、まるで昨日のことのように思えてならない。 クーゴとジョーゴは、水辺を見下ろす小高い丘にふたり並んで腰を下ろし、 波の音を聞きながら静かに語り始めた。 「相変わらず、あちこちを飛び回ってるようだな、クーゴ」 ジョーゴは優しい目で、気遣うように訊ねる。 「ああ、性分だからしょうがねぇな。お前はどうなんだ?この星もますます綺麗に なって行くな」 「そうだな。あれからずっと、開発と復興のために力を尽くしてる。 平和の有り難さを思い知るぜ」 平和の有り難さ・・・ジョーゴのそんな言葉を聞いてクーゴは微笑んだが、 その目は微かに切ない色を帯びていた。 姫がいるから。俺たちを守っていてくれる。 この平和、そう、姫無くしては語れないもの。 X4−OW星区での手助けを完了させ、地球に戻る途中で、ふいにジョーゴの顔が 脳裏に浮かんだ。 俺も、ジョーゴも、ここには居ないがハッカも、自分たちの手でやらなければいけない ことがある。淋しくなったからといって、センチメンタルな気分に任せて煩雑に会いに 行ったり出来ない。強がりかもしれないが、それが男の特権だ。 だが、そろそろいいだろう。しばらく振りの再会だ。 水の惑星の再生振りも見ておきたい。 クーゴが、自分自身にそんな言い訳をしながらジョーゴの元を訪れたことを 察したかのように、ジョーゴが笑って言った。 「なあクーゴ。今度はハッカも呼んで、たまには3人で会うのもいいと思わないか? あいつともあれ以来だろう?」 クーゴの顔が、光が射したように明るくなった。 「そうだな。そうしよう。久し振りだもんな」 結局クーゴは、ジョーゴの案内で、美しく変貌して行く新生・水の惑星のあちこちを 見て廻り、数時間の滞在の後、ジョーゴの元を去って行った。 「やれやれ。落ち着きの無いのは変わらねえな」 ジョーゴが笑った。けれど、本当は判っていた。 長居をすると余計淋しくなる、クーゴの性格。そして、ここに現れた本当の理由を。 クーゴ、お前がいちばん会いたい人はここには居ない。 忙しく駆け回って気を紛らわせているが、そろそろ限界だったんだろう。 俺も淋しいが、お前には敵わない。 お前が誰よりも姫を想っていることはわかってるさ。 風が出て来た。陽も落ちようとしている。黄昏を背に、ジョーゴの長い黒髪が 艶を帯びて輝いている。 「ジョーゴキャプテン」 モンパからの通信だ。ふと現実に戻されるジョーゴ。 「どうした?」 「西の制御塔のシステムに誤作動が出ています。見ていただけますか」 「わかった。今から行く」 ジョーゴは精悍な仕草でヘルメットを装着し、スターカッパーに乗り込んだ。 西に進路を取る途中、美しい夕焼けが空一杯にたなびいていた。 今を生きよう。悔い無く。 クーゴ、俺達は前に進むしかない。 姫への愛は、限りなく現在進行形だ。 スターカッパーは、夕映えの彼方へ静かに飛び去った。


●2002・10・15更新

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