イラスト・南十字あたる
街の喧騒から離れた、海岸沿い。
キティ研究所は、普段と変わらぬ夜の佇まいを見せていた。
ライトアップすれば、違った様相も楽しめるはず。
派手に飾らなくても、光があるだけで、不思議と人の心は暖かくなる。
「ライトアップ、ダメモトで、博士に頼んでみようかな……」
街から帰って来たクーゴは、一人呟いた。
数日後はクリスマスのため、街は賑わっていた。
その中を歩いて、楽しげな気分になると同時に、寂しさもクーゴは味わった。
クリスマスの楽しい思い出など、ほとんどない。
子供の頃、サンタクロースからプレゼントを貰ったと得意げに話す他の子に、
サンタなんていないと言って喧嘩をした。
クリスマスが近付いてくると、親にプレゼントを買ってもらう同い年の子を見
かけて、悔しいような寂しいような気持ちになった。
次第に、クリスマスは自分とは関係ないイベントだと思うようになった。
けれど。
サンタクロースはいると信じる心を持つのが大事だと、今では思う。
クリスマスを楽しむ気持ちは、決して悪くない。
たぶん、楽しげな親子を妬む気持ちが、寂しい心に繋がっていたのだろう。
そして今日、一番寂しく思ったのは、愛する人が傍にいないことだ。
去年の今頃は、大王星に向かって旅をしていた。
傍にいることが当たり前のようだったのに。
旅には、終わりが来る。
別れも来る。
「オーロラ姫……」
クーゴは愛する人の名を呟いて、空を見上げた。
無数の星が煌いている。
しばらく眺めていると、星がぼやけてきた。
クーゴの瞳に、涙がにじむ。
涙を堪えて、クーゴは、手でそっと頭に触れた。
オーロラと繋がっているはずの、頭の輪に。
少しでも、彼女の存在を感じようと。
自分の思いを伝えようと。
深閑とした空気。
聞こえるのは、海の音だけ。
星が一つ、流れた。
「……静かな夜だな」
大王星の夜もそうだろうか。
「でも、俺が姫のことを思っているから」
姫は寂しくないんだよ。
今度会う時があったら、そう伝えようか。
そう考えると、寂しさが消えて。
クーゴは、ぺちぺちと頬を叩いて、研究所に入って行った。
今日は、静夜――静かな夜。
数日後は、聖夜――聖なる夜。
空には、星が煌く。
☆おまけ☆
「なーんでドジ助教授まで付いて来るんですかー」
「ドジじゃない、ドッジじゃ!!」
「子供じゃないんですから、俺一人で買い物くらい出来ますって」
「バカモン!ワシは、お前が無駄使いせんようにと思ってな」
「ハイハイ。キティ博士の仰った予算内で買いますってば」
さすがに研究所をライトアップするとなると、とてつもない数の電球がいるの
で無理だが、
「大きいツリーを買って、飾る事はいいでしょう」
とキティ博士が許してくれたので、クーゴはまた街へ出かけることになった。
オーロラにクリスマス通信を送るとも、博士が言ったので、クーゴはツリー選
びを張り切った。
クリスマス当日、可愛らしいオーロラのマスコット人形や、クーゴ・ハッカ・
ジョーゴ、ドッジ助教授の人形がツリーに飾られていて、クーゴは驚いた。
一体誰が作ったのか。
もしやキティ博士が……いや、まさか、しかし。
訊けぬまま、オーロラと通信。
デレデレしているクーゴを見て、「分かりやすい奴じゃ」とドッジ助教授は苦
笑い。
「あら、その人形は博士が作ったのですね。いつもながらよく出来ていて、と
ても可愛いですわ(^^)」
とツリーに飾られた人形に気付いたオーロラが言った。
「そうでしょう?オーロラ姫の幼い頃にも、作ってあげましたものね。私は可
愛い人形を作るのが好きなのですよ。ほほほ…」
「えーっ!?」
キティ博士の意外な一面に、クーゴの目がテンになった。
おかげで?、姫は寂しくないんだよ、と伝えるのを忘れたクーゴだった。
♪おしまい♪
イラスト・南十字あたる
●2002・12・09更新
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