「レクイエム 」(大王星の朝・・・オーロラ) 作・みなこ
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時間は戻らない。どんなに願ったとしても。
オーロラは、自分の涙に気付いて目を覚ました。
天蓋を通して差し込む光が、夜明けを知らせてくれている。
そう、ここは大王星だった。
平和に満ち溢れ、争いのない、崇高な世界。
もう哀しまなくていい、宇宙には、何ひとつ心配事の無い幸せが、
果てしなく広がっている筈。
穏やかな日常にも慣れ、至福の毎日を堪能しているというのに、
何故私は泣いているのかしら・・・?
ベッドからそっと体を起こし、薄布の帳を掻き分けて這い出す。
金色の長い髪がはらりと寝具を打ち、白いナイトドレスの裾から
美しい脚が現れ、ひんやりとした床へ着地する。
オーロラは、長いドレスのトレーンを引いたまま、窓辺へと進んだ。
そのそばの猫脚の椅子に腰を下ろし、窓の外に広がって行く、
生まれたての朝を見つめる。
新しい朝は必ずやって来る。
幸せで、愛しい、静かな平和の営みが、繰り返し、繰り返し。
嬉しい。心からそう思う。でも。
昔は戻らない。時間は還らない。
どんなに今が平和でも。
大好きだった、お父様、お母様。
旅の途中で巡り会い、通じ合いながら、逝ってしまった人達。
ベラミスさんも・・・。
生きていて欲しかった、皆。
この平和を、贈りたかった。
オーロラの青い瞳の中に、真珠のように美しく切ない涙が
また浮かび、光りを放つ。
その時、朝日が静かに上昇を始めた。
今日が始まる。新しい未来に続く、今日が。
光を受けて女神のような面差しのオーロラは、
気丈に微笑んでみせる。
時間は戻らない。どんなに願ったとしても。
それでもどうか、お願い。
いつかまた、生まれ変わって新しいあなた達と
きっと何処かで会える。
そう信じさせて下さい。
そのために、私はいつまでもここで祈り続けるでしょう。
●2002・12・17更新
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