イラスト・南十字あたる
柔らかな夜明けの光が、ブラインドの隙間から
少しずつこぼれて来る。
心地良く深い眠りから、俺はそっと目覚めた。
こんなに優しく清々しい目覚めは、何年振りのことだろう。
身体の中からまるで生まれ変わったような、もしくは
羽根でもつけてもらったみたいに、軽く暖かい。
その理由は、俺のすぐ隣りで今、静かな寝息を立てて
眠っている、この女性のおかげだろう。
・・・・・ ベラミス。
長い睫毛、白い頬にかかる漆黒の髪は、少し乱れて
とても綺麗だ。
俺は、本当に君を抱いたのだろうか?
今ここに、俺の横に眠る君を見つめながら、ゆうべの
ぬくもりを反芻する。
俺達が出逢った頃、二人とも、れっきとしたサイボーグ
だったんだよな。・・・不思議な気持ちだ。
手を伸ばして、君に触れてみる。
柔らかい皮膚の感触、瑞々しい肌、露わになった胸の
奥の鼓動が、確かに聞こえて来る。
その時、君もゆっくりと、瞼をあけた。
まだまだ眠たげなけだるそうな目、けれど、
今までに見たことのないいじらしい微笑みを浮かべて、
君がこちらを見る。
「・・・・ クーゴ」
夢はここでぷっつりと切れ、クーゴは今度こそ本当に
目を覚ました。
寝癖で跳ねた髪、茫然自失の間抜けな顔。
自分でも、何が起こったのか把握不可能な頭の中。
一生懸命手探りで答えを求めるようにして、少しばかり
挙動不審な様子。
やっとのことで口から飛び出したのは、
「・・・ 何だ今の夢は? いや、本当に、夢・・・か?」
余りにもリアルな感覚。
心に満ち満ちていた幸福感、甘い至福の時、今でも
覚えている、触れた肌の柔らかい感じ。
そうだよ。俺はサイボーグじゃないか。
そして、ベラミスも・・・。
ああ、それに。ベラミスは、サイボーグのまま、最期を
迎えた筈じゃなかったのか。
どうかしている。夢だよ、夢。判ってる。
夢なんだから、俺達が、以前の人間の体でいたって
可笑しかないけどな。
けど。どうして、ベラミスと・・・・。
自分で夢を見ておきながら、頭を抱えて照れているクーゴ。
ただ・・・さ。
あの、幸せな気分は、どうしてだったんだろうな。
姫じゃなくて、ベラミスだった。俺の腕の中に居たのは。
心のどこかで、ずっと気がかりだったんだ、ベラミス。
俺の胸の中には、いつまでも最愛の女性が住んでいる。
だがな、ベラミス。お前のことも、大事だったんだ。
お前の哀しみを知っていたから、お前には幸せに
なって欲しかった。
俺が、そうしてやれなかったのが辛かったぜ。
ベラミス、夢の中のお前は、幸せな顔してたぞ。
俺は、その顔を見て、俺も幸せだと思ったよ。
クーゴは、思いきり伸びて大きな欠伸をひとつする。
「さあて、気持ち良く起きるとするかあ。今日もいい天気だ」
窓の向こうで朝がゆっくりと動き出し、小鳥がさえずりを
始めた。
平和な地球の一日が、今日も繰り返されようとしている。
●2002・12・17更新
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