暑い。たまらなく。
じりじりと照りつける真夏の陽射しに眩暈がしそうだ。
見渡す限り一面の椰子の木、そしてバナナの木。
色とりどりに咲き誇るブーゲンビリア。
はじめて目にする、鮮やかな羽根を持つ鳥。
あちこちに清らかな水源が存在し、その水音が
緑の香りと共に体の奥へと入り込む。
俺は、亜熱帯の美しい惑星へ、いつしか辿り着いていた。
久し振りに休暇を取り、少し気ままに旅がしたくなったのだ。
とはいうものの、結局、心落ち着く場所は、
水の音が美しく流れて来るところに決まってしまうようだな、
俺の場合。
生まれ育った懐かしい故郷の記憶の中で、最も癒される
水の音・・・・・。
何処へ行っても、俺はそれを求めてしまう。
だいぶ呆けていた気がする。
ふと、顔の真横をひらひらと舞って過ぎるピンク色の蝶に
気付いて、我に返った。
どうする、サー・ジョーゴ?
この熱帯の星で、少しばかり羽根を休めてみるか?
俺は、自分自身にそう問い掛けてみる。
逃亡先はここだ。
誰にも邪魔されたくはない。
あれから3年が経って、俺なりにがむしゃらにやって来た
つもりだが、無性にひとりになりたくなって、急に旅に
出ちまったっけ。
クーゴ。ハッカ。
お前達はどうしているんだろう?
いや。
元気で、頑張ってる筈なのは、聞くまでも無いことだがな。
ただ、この俺でさえ、こんなに淋しくなるんだ。
お前達だって、抑えきれない時もきっとあるに違いない。
オーロラ姫。
あなたを想う度に、俺は夢を見ていたのだろうかと
感じることが有る。
だけど、この平和をかみしめる時、ああ、確かにあなたと
一緒に過ごしたんだと実感する。
逢いたい。もう一度。
だが。逢うことは出来ない。
何故なら。
もしも、また逢えた時には、あなたを離したくないと
思ってしまうから。
俺は歩き続ける。
むせ返るような緑と、体中を浄化してくれるような
水の音の中を。
暑さによろめきながら。
しばらくは、この熱帯の楽園で、静かにひとり
癒されていよう。
俺らしくもない、非常なセンチメンタルが、再び通常モードに
リセットされる時までは。
●2002・12・17更新
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