1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その26





「君の弱さ」   作・にいな

机に頬杖をついて、窓の外を眺める。 青空が広がり、白い雲がゆっくりと流れている。 「……ベラミス。ベラミスってば!」 ぼんやりしているベラミスの肩を揺する、優しい手。 「ああ、メドナ、ごめん。あれ。また3冊も借りて来たんだ」 声をかけてきたのは、ベラミスよりは幼く見える友人・メドナだった。 「うん…」 メドナははにかんだ様子で俯いた。 彼女が手にしているのは本。図書室に本を返しに行ったメドナを待っていたの だが、また借りて来たらしい。 その本のタイトルを見て、ベラミスは思い当たった。 「ふーん、なるほどね」 悪戯っぽい微笑を浮かべる。 数日前、メドナが思いを寄せているクラスメートが好きだと言っていた本だった。 ―好きな人が興味を持っているものを、自分も知りたい― そういうわけだ。 「い、いいじゃない」 メドナは真っ赤だ。 「誰も悪いとは言っていないよ」 ベラミスは苦笑して言った。 「そろそろ帰ろうか」 ベラミスがバッグを持って立ち上がる。 「ねえ。ベラミスはどんな男の人が好きなの?」 メドナは照れ隠しに訊いた。 歩き出そうとしていたベラミスは止まった。 「そうだな…」 あまり恋愛に興味のないベラミスだったが、考えてみた。 「…強い男が良いな」 「そうだよね。ベラミスより強い男の人じゃないとね。うちの学校にはいない よねー」 「それじゃあ、私が、物凄く腕っ節が強いみたいじゃないか」 「でも事実だもん。ベラミスは無敵だよ。か弱い女の味方!」 「あのねえ、メドナ…」 ベラミスは脱力寸前だ。 メドナを含め、大人しい女の子を無理矢理誘おうとする男を、数人撃退した事 はあるが、片手の指の数だ。 それをあたかも沢山いるような言い方は止めて欲しい。 「ふふ。でも、ベラミスの隣には、強くて逞しい男の人が似合うよね」 メドナは一人で納得している。 そうだろうか? あまりごつい男も苦手だが、線が細かったり、女々しい男は嫌いだな、うん。 などとベラミスも思った。 そんなことよりも。 「今日は私の母さんが、オレンジケーキを焼くって言ってたんだけど」 「ほんとう?ベラミスのお母さんの焼くケーキ、大好き!お邪魔しまーす!」 メドナの目が輝く。 色気より食い気に早変わり。 ベラミスは可笑しそうに笑いながら歩き出した。 ……ああ、まだガリウス星で、平和だった頃の…… ……戦いなど知らず、サイボーグでもない頃の…… 夢か。 そう思いながら、ベラミスはゆっくり目を開けた。 目の前に広がるのは、漆黒の宇宙。 自動操縦にして、仮眠していたベラミスは、溜息を吐いた。 失ってしまった親しい人々、故郷の星。 以前は夢見て、泣きながら目覚めていた。 けれど、もう涙も枯れてしまったのか、泣きながら目覚めることはない。 外して横に置いていたヘルメットを、人差し指で弾く。 今は一つの事しか頭になく、泣いている場合ではないからか。 ビブロス星のロカン達が見つけた新しい故郷の星は、遊星。 その遊星のコントロール方法を授けた後、ベラミスは大王星に向かっていた。 クーゴと決着をつけるために。 ―何の決着だ?― 心の奥から、問いかける声がする。 ベラミスは答えられない。 ―もし、どちらが強いのかを決める決着ならば、馬鹿げているぞ― 「そんなことは、解っている…」 ベラミスは呟いた。 ―ベラミス、お前はクーゴを…― 「そうなのか…?」 自分の気持ちなのに、解らない。 『ベラミスには、強い男の人じゃないとね』 懐かしいメドナの声。 「ああ、強くなくてはな。だけどね、メドナ。本当の強さは、腕っ節じゃない。 それは、解って来たよ…」 本当の強さとは、心の強さ。 それは、優しさや思いやり。 いつだったか、助けを求める人々を見捨てておけないオーロラ達の心を利用し て、罠を仕掛けた事がある。 優しさは、時には弱点となる。そう思って。 けれど、その弱さ、優しさは、強さに変わるのだ。 愛と言う強い力に。 それを教えてくれたのは――。 その時、ピーと、コンピューターが反応した。 大王星が近いと知らせている。 ベラミスは、キッと前方を見据えた。 クーゴへの思いに揺れる今の自分は、脆い。 それには気付いている。 戦って敗れるのは、きっと……。 それでも。 「決着をつける……!」 ベラミスはヘルメットを着用した。 そして自動操縦から手動に変え、宇宙艇のスピードを上げた。


●2003・1・7更新

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