1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その3



イラスト・南十字あたる



「追憶」                               作・にいな
大王星は美しい。 オーロラは、大王星の月の、小高い丘を登る途中で大王星を振り返り、あらためてそう思った。 ギャラクシーエネルギーを放って光り輝く大王星。 しばらく見つめた後、再び目的の場所に向かって歩き出す。 オーロラは月に一度は、ここに来ていた。 大王星の宮殿の中にいると、時間の感覚がなくなる。 幸い、大王星の自転は地球とほぼ同じ24時間なので、オーロラは地球の暦で 過ごしていた。 月の王女だったオーロラは、大王星の月に親しみを持っていた。 淡々と過ぎる日々の中、数少ない楽しみがこの月を訪れることだった。 いつもは白やピンクのドレス、またはこの月に生息している小動物と戯れるた め、パンツルックで来ることもある。 しかしこの日は、黒のドレスで、腕には大王星に咲いていた花々を、束にして 抱えている。 目的の場所に近付いてきた。 丘の上に、墓標が見えている。 墓標は短剣であった。 それは、ベラミスが持っていた剣。 小さく土を盛り上げた上に突き立っている。 急ごしらえで作ったので、小さな墓だ。 墓の傍に、花束があるのに気付いたオーロラは駆け寄った。 地球に咲く白百合だった。まだ新しい。 「クーゴさん……」 オーロラは呟いた。 こんなことは、初めてではない。 長い間、オーロラを守って戦い、オーロラを大王星に無事に連れて来た3人の サイボーグ戦士なら、時々は大王星を訪れても良いという許可が、元大王星の 女王から降りた。 それで、2、3ヶ月に一度くらいの割合で、クーゴ・ハッカ・ジョーゴがそれ ぞれ訪ねて来る。時には3人揃って。 今それぞれの故郷はどうなっているのか、大王星に来る旅の途中で立ち寄った 星のことなど、色々な話をする。 会って話が出来るだけで、みんな満足していた。 ところが、オーロラと会って話をするのとは別に、クーゴは大王星の月にある このベラミスの墓を訪れているようなのだ。 ここにある白百合が新しいということは、数日前には来ていたはず。 しかし、オーロラがクーゴと最近会ったのは、1ヶ月くらい前だった。 つまり、オーロラに会いに来て、ベラミスの墓にも立ち寄る、というわけでは なく、別々に会いに来ているのだ。 「そう、ベラミスさんに、会いに来たのですね……」 墓参りではなく、会いに来ている。 分かっていたことだが、オーロラはあらためて噛み締めた。 何かを吹っ切るように姿勢を正し、徐にオーロラは、腕に抱えていた花束を白 百合の傍に置いた。 また数ヶ月後にここを訪れたオーロラかクーゴのどちらかが、枯れた花を片付 け、新しい花を置く。 枯れた花を見て、お互いが来ていたことを知る。 それでも、大王星で会った時に、その話はしない。 その繰り返し。 それで良いと思っている。 あの時、ベラミスは命を懸けて光量子のモンスターを倒してくれた。 大王星に急がねばならない気持ちはあったが、オーロラはベラミスを弔ってか ら行きたいと思った。 小さな墓を作って、残された剣を墓標代わりにする。 何度も自分を狙っていたベラミス。 だが、志は、星をなくした人達のために、銀河宇宙の平和のためにと、自分と 通じるものがあった。 ギューマ・ラセツ軍団が滅んだ後、有言実行の如く、クーゴと協力し、さ迷っ ていた星人の新たな故郷を見つけるということをやったと、クーゴからも聞いていた。 遠回りしたが、ベラミスも仲間だったのだと思い、オーロラは友人を弔いたか った。 急ごしらえだから小さくなってしまった。時間が出来たら、もっとちゃんとし た墓を作りましょうとオーロラが言ったが、クーゴがこのままでいいと言った ので、作った時のままである。 その時のクーゴは口数が少なかった。 ジョーゴが語ったように、クーゴにとってベラミスは素敵なライバルだった。 友情を感じる仲だった者が死んで、悲しく言葉も出ないのは当然だと、その時 のオーロラは思っていた。 しばらくクーゴは墓の前に佇んでいたが、さっと振り返り、大王星に急ごうと言った。 あれから時が流れ、オーロラも気付いたことがある。 ベラミスは、クーゴに、好意を持っていたのではないかと。 友情ではなく、愛を感じていたのではないかと。 あの時、ベラミスは、クーゴを守るために命を懸けたのではないかと。 そう気付いたのは、オーロラ自身も、クーゴを守るためなら、命を懸けること を厭わないから。 もちろん、自分はギャラクシーエネルギーを持っている唯一の者で、簡単に死 ぬわけにはいかないが、命を懸ける覚悟はあったのだ。 気付いた時から、オーロラはベラミスが羨ましいと思った。 自分の意志で、生を決められたから。 ベラミスは死を選んだかもしれない。 しかし、何かのために生きると決めていたから、生きた証は残した。 オーロラも、大王星の女王として生きることを決めたのは、最後は自分の意志 だ。だが、選べる自由がなかったとも言える。 心の奥に、今すぐ地球に戻ってクーゴの傍にいたいという気持ちがある。 しかしそれは許されない。 自分は、銀河宇宙すべてに平和をもたらすために生きると決めたのだ。 「ベラミスさん……」 呼びかけてみるが、答えるはずもない。 短剣を見つめるオーロラの瞳は揺れている。 もし、ベラミスが生きていたなら、今頃クーゴとベラミスは肩を並べて歩いて いただろうか。 クーゴの傍らにいるのは、いつもベラミスだったのだろうか。 そう考えると、ベラミスに嫉妬する。 ここに来ると、心が乱れる。 だがオーロラが、一人の女としての存在に戻れるのは、ここだった。 同じ一人の男を愛した者同士として、ベラミスには、誰にも言えないことを話 せる。思いをぶつけられる。 答えは返ってこないけれど、いつもは心の奥にしまってあるクーゴへの思いを 語れるから。 だから、ここを訪れてしまうのかもしれない。 長い長い大王星の女王としての暮らし。 ひととき、そんな時間を過ごすくらい許して欲しい。 丘に、一陣の風が吹いた。 優しくオーロラの頬を撫でる。 風が言ったような気がした。 いつも傍にいられずとも、時々は会える、と。 オーロラは両手を出して、手の平を見つめた。 そう、この手をかざせば、クーゴはすっ飛んでくるだろう。 この手は、離れていても、クーゴと繋がっている。 そう思えるだけで幸せなのだ。 そしてベラミスも、クーゴの心からは消えていない。 「ベラミスさん、また会いに来ます。その時はまた、私の思いを聞いてください。   今度から、黒い服はやめにします。あなたに会いに来るのですから」 追悼の思いで黒のドレスを着ていたが、今度からは普通の服にしようと思った。 オーロラは墓に一礼して、丘を下り始めた。 大王星から乗ってきた小型の宇宙艇の近くまで来ると、地球のリスに似た動物が何匹かいた。 オーロラに気付いて、可愛く挨拶する。彼女も笑って手を振る。 「今日は帰ります。また今度遊びましょう」 動物達はオーロラが黒のドレスを着ている時は、遊んでくれないことを知って いた。だが、その時のオーロラは、気品ある大王星の女王である時と違って、 いつもより生気に満ち溢れた人間に見えていた。 彼らは女王である時も、ただの人間である時も、オーロラが好きだった。 宇宙艇が飛び立った。 光り輝く大王星に向かうオーロラの顔は、女王の顔に戻っていた。



●2002・5.15.更新






スタジンオリジナル小説メニューへ戻る / スタジントップページへ戻る