1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その30





「翼」   作・みなこ

大王星は春爛漫だった。 美しい緑は益々色濃く、光り輝き、あちらにもこちらにも 新しく花が咲き揃う。 オーロラ姫は丘を散策していた。のどかに歌を口ずさみ、 シフォンの青いドレスの裾を軽快に泳がせて。 いつもとは違う経路で泉のそばへ来た時、それまでは目にしない 花々が咲いているのに気付いて立ち止まる。 「まあ綺麗・・・。こんな花がここに咲いていたなんて」 オーロラ姫は花の咲いている片隅に腰を下ろした。 ふと目を遣って、こんなことを思う。 この青い花は。ジョーゴさんのよう。清々しくて心落ち着く。 こちらの黄色い花はそう、ハッカさん。元気で暖かくて。 そして・・・。向こうの赤い花。これがクーゴさん? いいえ。 オーロラ姫は微笑んだ。 クーゴさんはその白い花。心の綺麗な彼には白い花が似合う。 オーロラ姫は嬉しそうに空を見上げて、陽の光の中でまるで 妖精のように見えた。 水の惑星は秋。緑がだんだんと深い色を増して行く。 「ジョーゴキャプテン」 振り返るとモンパが立っていた。新しいユニフォーム姿だ。 「モンパ。やったな。見違えたぞ」 ジョーゴが先輩らしく笑う。 弱虫だったお前がどんどん力をつけて、もうこの星はお前の力 無くしては復興出来ない。 「今夜は昇進祝いと行くか。おごるぞ」 ジョーゴは晴れ晴れとした顔で、モンパを軽く小突いてみせた。 「嬉しいですね!でもキャプテン、それならリリカさんも誘って 下さいよ」 「こいつ、抜け目のない奴だな、まったく」 ジョーゴの目尻は優しく下がったままだ。 新しい俺達の星。新しい生きがい。そして沢山の仲間達。 寂しがっている暇はないな、今は。頑張るのみだ。 ジョーゴは深呼吸をひとつして、モンパの肩をそっと叩いた。 美しさを取り戻した泥の惑星は、暖かな季節。 鐘が鳴ってお昼を告げる。 「おー、昼飯昼飯!ボクちゃんの安らぎタイム。さーて、 今日のランチのメニューは、と」 ハッカが午前中の仕事を終え、昼休みに入る。 「ハッカさ〜ん」 振り向くと、背後に一緒の仕事仲間が集まって来ていた。 「おっ、来たなみんな。メシだメシだ早く食おうぜ。もう腹が減って 死にそうだあ」 「ハッカさんの食べっぷりは感動もんですよ〜。今日はどんな 冒険話をしてくれるんすか?」 大王星から帰って以来、ハッカはこの星のヒーローだ。 得意気に毎日話してやる武勇伝を、皆それでも飽きずに聞きに 来る。時々ボロが出るが、そんなハッカを誰も憎めない。 「そーだなあ。今日はアサーリシジーミ軍団の話でもするか〜」 ハッカの高笑いが明るく響き渡った。 地球ももうすぐ冬が終わろうとしていた。 空気が春の始まりの匂い。 キティ博士は研究所の花壇の淵にしゃがみ込んで、何かに 見入っていた。通りかかったクーゴが気付き、声をかける。 「何見てるんですかあ、キティ博士?」 キティ博士はクーゴの方を振り返って微笑んだ。 「花がね、そろそろ咲きそうですよ」 「花?何の花ですか?」 クーゴが近付く。 キティ博士は再び花壇に目を移し、優しい面差しで言った。 「この花はね、オーロラ姫が大好きだったんですよ」 見るとキティ博士の指差す場所に、真っ白な蕾が幾つも有った。 クーゴは愛しそうにその花を眺めていた。そして。 「大王星にも咲いてますかね」 キティ博士は笑った。 「ええ、きっと」 ここは高い。様々な景色が見えて。 ベラミスは安らいだ眼差しで、ゆっくりと息を吐く。 下に居た時は、分からなかったな。 こんなに美しい眺めだなんて。 クーゴ、相変わらず急いでいるんだな。もっと慎重になれ、 いい加減。肩を押さえてやりたくなるぞ。 ジョーゴにハッカ。何ともマイペースでいい感じだ。 オーロラ姫。今日も美しい、あなたは。そして、とても 幸せそうだ。平和で良かった。あなたが居てくれて良かった。 ベラミスの掌から、白く透き通った美しいものがこぼれ落ちて行く。 どんどん下に流れて、見えなくなった。 お前達は、見えない翼をいつの日も持っている。 忘れるな。どんなに切ない日々があっても。 私はここで見ている。 お前達の翼がずっと輝いているように。 いつまでも見ている。


●2003・2・27更新

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