1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その33





「回想 ― Old Memory ―」   作・みなこ

あれからクーゴは、キティ科学研究所の一角に自分の部屋を もらい、日々キティ博士とドッジ助教授を助けて今なお活躍を 続けていた。 寂しさを紛らわすかのように精力的に動き回っているので、 いつ休んでいるのかしれない程クーゴは忙しそうに見える。 キティ博士は何も言わずに任せていたが、春風が心地良い ある日、クーゴを呼んだ。 「今日はとても気持ちの良い日ですから、たまには休日にしなさい」 クーゴはキティ博士の気持ちを有り難く思いながらも笑って言った。 「ありがとうキティ博士。でも、俺は動いてるほうが性に合うんで 気にしないで下さいよ」 キティ博士は目を細めて頷いた。 「そうですか。・・・じゃあクーゴ、申し訳ないですが南の書庫に 行って、探して欲しい本を何冊かお願いしますね」 クーゴはキティ博士の頼み通り、本の検索に書庫へ向かった。 研究所の南側には離れがあり、そこはキティ博士の自室や 大事な本が有る書庫、そして、オーロラ姫が居た頃に使っていた 部屋もそのまま残されている部分だ。 一般の研究員などはもちろん出入り不可の、いわば聖域である。 クーゴは家族同然に信頼されていて出入りが可能で有るが、 それでも今までに一度ほど書庫を訪れた程度だった。 廊下を進んで行くと、左側に書庫、真っ直ぐ行けばキティ博士の 部屋。そして、右前方にオーロラ姫の部屋。 今はその部屋の主は居ないから、ドアの施錠がされているが、 時々キティ博士は風を入れるために、オーロラ姫の部屋の窓や ドアを開放する。 もう二度とこの部屋へオーロラ姫が帰って来ることはない。 けれど、キティ博士は、まるで、子供がいつ帰って来ても迎えて あげられるようなそんな感じでここをそのままにしている。 クーゴはオーロラ姫の部屋の前に立ったまま、ふっと考えた。 ― キティ博士もきっと寂しいんだろう ― 少しだけ切ない目をしてすぐまた普通の顔に戻ったクーゴは、 書庫のドアを開け、中に入った。 クラシックな、というか何となく郷愁を感じさせる書庫の中。 色褪せや退化を防ぐために、照明を穏やかなものに しているせいもあるのだが、何となくこの薄暗さが落ち着く。 クーゴは奥の棚まで行き、本を何冊か探す。 三冊目の本を手にした時、それが思いのほかずっしりとしていて クーゴはバランスを崩し、そばの棚に体をどん、と寄せてしまう。 その途端、その棚にあったファイルが一冊、床に落ちた。 「いけね」 クーゴは振り返り、屈んで落ちたファイルを拾う。 少しだけ付いた埃を払おうとして表紙に手を触れたその時、 クーゴの動きが止まった。 “オーロラ姫 ・ 7歳” 表紙に、キティ博士が手書きで書いた文字があった。 クーゴは、そっと頁を開いた。 可愛らしい7歳のオーロラ姫の写真が、たくさん納められていた。 笑っている顔、膨れっ面、泣きそうな表情。 キティ博士と一緒に写っている楽しそうな姿も幾つか。 今は大王星の女王として、立派に君臨しているオーロラ姫の、 愛くるしい幼少時代の記録だ。 クーゴの顔は優しかった。それは、とても懐かしいものを見るような、 慈しむべき者を見るような、限りない想いを湛えていた。 ファイルを胸に寄せて、クーゴは目を閉じた。 そして、再びファイルを元の場所に戻し、本を抱えて書庫を後にする。 「キティ博士、本を持って来ました」 クーゴがキティ博士の元に戻って来た。 キティ博士はデスクで書き物をしていた手を止め、クーゴの方を 向いた。 「ありがとうクーゴ。そうそう、ドッジ助教授が捜していたようですよ」 次はドッジ助教授の手伝いである。 「じゃあ行って来ます」 クーゴはそう答え、行き掛けて、そこでキティ博士の方を振り返った。 「キティ博士」 思わずそっと呼んでしまう。 「どうしました、クーゴ?」 キティ博士の目は優しかった。 クーゴは首を振って笑った。 「いや、何でもないです。それじゃ」 クーゴの駆けて行く足音が、廊下に響き渡った。 また一陣、春の風が窓から流れ、通り過ぎて行った。


●2003・03・13更新

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