1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その36


スタージンガー再放送終了記念作品



「出会い」   作・にいな

キティ研究所にあるドッジ助教授の研究室。 大王星への旅を終えたクーゴは、そこで身体のチェックを受けていた。 「ふ〜む……やはり、この回路はお前の身体に負担をかけたようじゃのう」 「え、どれですか」 寝台に寝たまま、クーゴが訊ねる。 「巨大・縮小回路じゃ。思ったより、負担になっておる」 「そりゃまあ、ゴルゴアモンスターは手強かったですからね。だけど、 クローベルトにワープ航法を使った時も、きつかったすよ」 クーゴが本音を漏らす。 「そうじゃったな。しかし、ワープ航法は滅多に使わずに、クローベルトだけ で事足りるはずじゃ」 「まあ、そうっすね」 「それに銀河宇宙は平和になった。お前が無茶して戦う事もなくなったのじゃ」 「はあ」 「この回路は外そう。いつか必要になった時に、また付けてやる。そんな時は 二度と来ない方が良いがのう」 「ええ……」 クーゴは目を瞑った。 「ドッジ助教授、外して構わねえよ。今すぐ出来るんだろ?やってくれよ」 少し投げやりな口調でクーゴが言うのに、ドッジ助教授は一瞬眉を寄せたが、 「よし。すぐに終わるからな」 そう言って外すのに必要な準備を始めた。 それから1ヶ月後。 クーゴはドッジ助教授に呼び出されて、再び研究室に向かっていた。 また身体のチェックをすると言う。 疲労したサイボーグ組織や機能が、メンテナンスと1ヶ月の休息で完全に回復 したか、確認するとか何とか言っていた。 クーゴとドッジ助教授、それにキティ博士は毎日顔を合わせているが、覇気の ないクーゴをドッジ助教授は心配していた。 心配していることは感じているし、クーゴ自身も生き甲斐を無くして腑抜けに なってしまったような自分は嫌だった。 だが、底まで沈んでしまった気持ちを引き上げるのは容易ではないような気が していた。 研究室のドアまであと数メートルの所で、クーゴは立ち止まった。 既視感を感じたのだ。 「何度も来てるのに、今更…?」 クーゴは呟く。 サイボーグ手術を受けたのはここだし、太陽系連合軍に喧嘩を吹っかける前は 何度も訪れている。 1ヶ月前に身体のチェックに来たし、大王星への旅の途中だって、数回地球に 戻って来た時に……。 『クーゴ、何があったんじゃ?』 戻って来た途端、泣き出したクーゴを心配して、研究室に引っ張って来られた 時もあった。 オーロラ姫から、クィーンコスモス号を降りるようにと言われた、あの悲しか った時だ。 『あの娘は』 『そう。この時オーロラ姫は、5才でした』 月の王国がスペースモンスター・ベムラの一味に襲われた時の映像を見たのも その時。 5才のオーロラ姫。幼い女の子……。 「そうか…!俺は、ここで、姫と会ってる…!」 クーゴの脳裡に、10年余り前の記憶が急速に甦った。 サイボーグ手術を明日に控え、身体の最終検査を受けるため、クーゴはドッジ 助教授の研究室に向かっていた。 人間としての身体で過ごすのは、今日で最後か。 そんなことを思いながら。 研究室のドアまであと数メートルの所で、ドアが開いた。 中から出て来たのは、キティ博士と彼女に手を引かれた7,8才くらいの女の子。 クーゴはキティ博士とは面識があった。 ドッジ助教授に紹介された時は、地球一の科学者として、知的で、少し冷たい 感じを受けたが、何度か会ううちに、優しい母のような感じも受けた。 女の子は知らないが、キティ博士の知り合いなのだろう。 まさかキティ博士の子供じゃねえよな。 などと思いながら、すれ違う時に軽く頭を下げて挨拶した。 キティ博士も微笑んで頷く。 「クーゴ。明日が手術だとか。新しい人生のスタートになりますね。頑張りなさい」 「あ、はい。頑張ります」 クーゴは胸を張って答えた。 そう、この時まだ10代のクーゴは、希望を持ってサイボーグになろうとして いたのだ。 暴れ回るためではなく、輝かしい未来があると夢見て。 ふと女の子を見ると、目が合った。 女の子ははにかんでいるようだが、ぺこりと頭を下げてクーゴに挨拶した。 クーゴも女の子に微笑みかける。 「では、キティ博士。失礼します」 互いに背を向けて歩き出す。 「キティ博士、ドッジ助教授は、あの人の、シュジュツが、あるから、今日は 忙しいのですね?」 手術と言い難そうに言う声が可愛い。 「そうですよ。オーロラ、ドッジ助教授とは、また別の日に出かけましょうね」 「はい!また別の日に誘って、ピクニックに行きましょう!」 そんな会話が聞こえた。 振り返ると、女の子はピンクのリュックサックを背負っている。 オーロラって名前なのか、可愛いな。 キティ博士って呼んでいたから、博士の子供じゃねえな。 母娘のような2人をしばらく見送ってから、クーゴは研究室のドアを開けた。 中に入ると、今の出会いは頭から消え去った。 「あの時の女の子は、8才くらいのオーロラ姫だったんだ…」 映像で見た5才のオーロラ姫、すれ違った8才のオーロラ姫が、クーゴの中で 繋がった。 「姫と初めて会ったのは月だと思ってたけど、本当はあの時なんだ…」 今まで思い出しもしなかったが。 10年程前は、ほんの近くにいて、同じ空気を吸っていた。 同じ地球上にいた。 「世間は狭いもんだ…」 くすっと笑う。 「姫は覚えてるかな。でも、本当にすれ違っただけだし、忘れてるよな」 その程度の、時期尚早の出会いだったのだ。 互いの運命を変えるような出会いは、あの月での出会いなのだから。 その前に会ったのは、神の悪戯か。 「ちょっと得した感じだな」 幼いオーロラ姫も通った廊下を見回すクーゴの目は優しかった。 「姫……」 呟いて目を閉じた。 月での出会いから大王星に着いた時まで、様々な思い出が甦る。 愛と平和と命の尊さを教えてくれた、オーロラ姫。 彼女との出会いに恥じない生き方をしよう。 それが、これからの目標。 クーゴは目を開け、歩き出し、 「ドッジ助教授!」 元気良く研究室に入って行った。 激しく落ち込んでいたものの、立ち直ると行動は早いクーゴだった。 その後、銀河宇宙の平和のために働くと言って、クーゴは銀河系を飛び回って いる――。


●2003・05・27更新

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