1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        

">

スタジン小説 その37





「魔法の果実」   作・みなこ

ギララ星系の中で唯一、ギャラクシーエネルギーが弱まった 影響をかろうじて免れて来た惑星。 それがラブリー星だった。 クィーンラセツのたくらみにより、戦火にさらされはしたが、 それでも自然はまだ余りある。 キュートが安らかに眠りにつくまでの間、男三人は、外へ出て せめてもの修復作業をしていた。 そんなことしなくていいからと、リード達に言われながらも。 そんな中で、果樹園がそれほど大きな被害もなく済んだことに ほっとする。さすがのラセツ軍団も、自分達の食材となる源を すべて破壊するのは忍びなかったか。 ハッカが思わず、熟れた実を眺めて目尻を下げる。 「うっわ〜・・・うっまそうな果物だなあ。新鮮そのものだぞ、これ」 クーゴが横で呆れて言う。 「こらハッカぁ。さぼってんなよ、この食いしん坊が」 ジョーゴは笑ってそのやり取りを見ている。 ハッカはしつこく 「だってさあ、ほんとおにうまそーだぜ、クーゴ。見てみろよ」 ジョーゴが助け船を出す。 「まあ、ハッカの言うのも分かるがな。やっぱり太陽の恵みを いっぱい受けて育ったものはきっととびきりだろうさ」 そばで一緒に片付けをしていた村人の一人が、こちらを向いて 言った。 「あの、良かったら、持っていって召し上がって下さい」 ハッカはそれを耳にして、真っ先に小躍りし喜ぶ。 「ほんと〜?ほんとに本当?おい、聞いたかあ、クーゴ、ジョーゴ!」 クーゴもジョーゴもやれやれといった表情。 村人は笑い、そして籠を持ってその美味しそうな実を摘むと ハッカに快く渡した。 「さあどうぞ。宇宙船の中では中々新鮮な物は口に出来ないでしょう。 存分に召し上がって下さいよ」 ハッカは大喜びだが、ふと目の前に垂れ下がっていた紫の実が 籠には入っていないことに気付いて、村人に問う。 「あ、あのさあ。この紫の実って、まだ熟してないのかなあ?」 「ハッカぁ」 ジョーゴが軽く窘める。 村人はちょっと困ったような目をして答えた。 「ああ、それは・・・。味はいいんですが、主に薬として用いるので、 おすすめ出来ません。食べる人によっては体に合わないことが あるので」 「ほれ見ろ、この大食いが」 クーゴはハッカの頭を小突く。 その時、オーロラ姫が三人を呼んだ。 「クーゴさん、ハッカさん、ジョーゴさん、出発しましょう」 クィーンコスモス号はラブリー星を後にした。また再び、大王星に 向けて旅は再開する。 コスモス号のリビングルームに三人は集まり、先程頂戴して来た 新鮮なフルーツがテーブルに並んだ。 ピンクのドレス姿に替えて戻って来たオーロラ姫も加わり、束の間の 休憩タイムだ。 「まあ、何て美味しいんでしょう」 オーロラ姫は年頃の娘らしく、喜んでそのデザートを味わう。 ハッカもご機嫌だ。クーゴもジョーゴも、久しぶりに瑞々しい物を口に して、満足そうにしている。 ところが、ほどなくして、嬉しそうにしていたオーロラ姫が、何も 喋らずに俯いて、そのままテーブルに突っ伏してしまった。 オーロラ姫の異変に気付いたクーゴが、慌ててそばに駆け寄る。 「姫っ!お、オーロラ姫!!」 オーロラ姫はぐっすり眠っている。 ふと回りを見ると、ジョーゴもテーブルにもたれたまま熟睡。 ハッカは無事だが、呆然としてしまっている。 「おいハッカ!何ぼっとしてるんだ、手を貸せ」 クーゴの大声に我に返って、ハッカは慌てる。 クーゴはオーロラ姫を部屋に運ぼうとして抱き上げる。 「ど、どーしよう」 ハッカがおろおろし出した。 「おまえはジョーゴの様子を見てろ、ハッカ!」 クーゴは、オーロラ姫を抱きかかえて、ロビーを進んで行った。 オーロラ姫の部屋へ入り、彼女をベッドに横たわらせて、心配そうに 見つめながらクーゴが出て行こうとした時だった。 「待って・・・クーゴさん」 クーゴは驚いて振り返る。 「大丈夫かい姫?良かった、どうしたのかと・・・」 そこまで言いかけて、ベッドに体をもたせたオーロラ姫の目つきが 尋常でないことに気がつき、ぎょっとする。 美しい金髪が頬にしな垂れかかり、瞳の色はいつものブルーから 紫に変わって、口元が妖しく濡れている。 ピンクのドレスの肩口が更にはだけそうになっており、思わず クーゴは目を逸らした。 「クーゴさん、行かないで、ここにいて・・・」 縋るような甘い声も、とても普段の姫のものとは違う。 オーロラ姫はそのまま背後からクーゴの腕を掴んで、引き寄せる。 オーロラ姫に引っ張られて、クーゴが次に見たのは、極至近距離に ある彼女の顔。うっとりとこちらを見る目。 オーロラ姫は目を閉じて、クーゴに近付く。 「!!」 クーゴが状況を把握出来ないまま驚愕した状態で固まっていると、 次の瞬間、オーロラ姫はまたぱったりと今度は後ろに倒れた。 ベッドの中で良かったが。 そしてそのまま、また眠ってしまった。 クーゴは、暫く放心状態だったが、頭を掻くと、ちょっと困惑しながらも 何かまずいことが起きたことに身構えて、オーロラ姫の部屋を出て 行った。 リビングルームに戻ったクーゴを待っていたのは、今度は変わり果てた ジョーゴの姿だった。 「遅いじゃねえか、クーゴ。何やってんだよ」 いきなりジョーゴにそう言われて、面食らう。 クーゴはハッカを肘で突付く。 「お、おいハッカ。今度はジョーゴがどうなってんだよ」 ハッカは弱り果ててクーゴに泣きつく。 「それが、どうもこうも、わかんないんだよお」 ジョーゴは二人の様子を座った体勢で見上げ、面白くなさそうに言う。 「そうか、俺はどうせ邪魔者だよなあ。いいぜ、それなら姫のところへ でも行ってよろしくやるとするからな」 「!!」 クーゴもハッカも、およそジョーゴの台詞とは思えないその言いっぷり にショックを隠せない。 ジョーゴは紫色の妖しい目をして立ち上がると、ロビーの方へ、いや オーロラ姫の部屋のある方へと行こうとする。 クーゴとハッカは慌ててその後を追い、ジョーゴの手と足をそれぞれが 引っ張った途端、音を立ててジョーゴは床に倒れた。 そして。またもやそのまま眠ってしまった。 「一体全体どういうことなんだよ」 ジョーゴを寝室に担ぎ入れ、クーゴとハッカは再びリビングで向き 合った。 ハッカが言いにくそうに身を小さくして白状する。 「ごめん・・・。俺が隠して持って来たあの紫の実のせいかも・・・」 クーゴは飛び上がる。 「ハッカ!!あれほど言っただろうが、バカっおまえは!」 「ごっごめんよおお。あんなことになるなんて思わなかったんだよ〜」 目の前に残ったラブリー星のフルーツ。 その紫の実はあと1個。あんなことが起きなければ、きっとハッカが 最後の楽しみに取っておいたそれを満足そうに食べた筈。 クーゴが呆れ果て、憮然としているそこへ、ジョーゴがドアを開け 入って来た。 「ジョーゴ!!」 一斉にクーゴ、ハッカが驚く。 瞳の色はいつものジョーゴに戻っている。ちょっと疲れたような 顔をして。 「ああ、何だか寝ちまったみたいだな。どうしたんだ俺は? クーゴ、ハッカ、さっきまでここに一緒に居て寛いでたよなあ、俺は」 憶えていないみたいだ。さっきまでのこと。 「ジョーゴ!おまえもう何ともないのか?」 クーゴは安心して言う。 「何ともないって・・・俺、何かおかしかったのか?」 「いや、違う違う、ジョーゴ、すっごく疲れてたんだよ〜」 ハッカが調子を合わせる。 クーゴの片足が、ハッカの足を踏みつける。 そこへ、オーロラ姫も姿を現した。 「皆さん、どうしたのですか?何だか賑やかで。私、気が付いたら 部屋で休んでいて、何も憶えていないんですけど、どうしたんで しょう?」 「姫もね、だいぶお疲れだったみたいですよ」 クーゴが笑って答えた。 「そうですか?ああ、そうそう。せっかくその美味しいフルーツを 食べていたのに」 そう言って、オーロラ姫はまた紫の実のそばに近寄ろうとする。 「あああっっ、だ、ダメーーっっ!!」 クーゴとハッカが一緒になってフルーツを撤収する。 ジョーゴはその様子が気になって、電卓を取り出した。 「はあん・・・」 コックピットには、たった一人でハッカが操縦をしていた。 今回の不祥事はハッカの全面責任問題ということで、そのペナルティだ。 問題の紫の実は、一時的に人格を変える麻薬的な作用があったようで、 時間が経てば副作用もなく正常に戻ることが判明した。 たったひとつ残った例のものは、ハッカがさっき宇宙の闇に放り出した。 甘いフルーツに隠された意外な毒が巻き起こした、不思議な体験。 ハッカもさすがに今回は懲りたようだった。 とはいえ、問題ない自動調理機の料理に対しては、食欲減退となる 筈もないみたいだが。


●2003・06・03更新

スタジンオリジナル小説メニューへ戻る / スタジントップページへ戻る