1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その41


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イラスト・南十字あたる



「夏の感傷」   作・みなこ

朝から既に真夏日になりそうな気配がする。 午前5時。 空気はまだ涼やかだが、鳥達はあちこちで囀り、光が射し込む。 平和な地球の一日が今日も静かに動き出そうとしている。 クーゴは自分の部屋のベッドで自然に目覚めた。 珍しく清々しい、それで思い切って、早いけれど起き出してみる。 長い足がベッドからすっと降りた。そのまま光の元へ向かう。 窓を開けると、綺麗な一番の風がクーゴの髪をなびかせた。 すぐ近くでする潮騒と海の香りが、体の中に飛び込んで来る。 クーゴは穏やかな目をして外の木々を眺め、深呼吸をしてから 大きく伸びをする。 「さて。シャワーでもするか」 クーゴはそばの椅子に無造作にかけてあった真っ白なタオルを ひょいと肩に放ると、バスルームに向かった。 「あーおくかがやくつっきーよりーもぉ♪」 クーゴはご機嫌に歌いながらシャワーに打たれている。 「ひーめはまことにうつくしい…」 そこまで歌いかけて、クーゴの歌が止まった。 生温い温度の水が自分目掛けて上から降り注ぐ中、ふとクーゴは 黙って中空を見つめてしまう。 髪から滑り落ちる水滴が、シリアスな表情のクーゴを覆う。 何かを思い出しているようだった。 けれど、気を取り直したように静かに微笑んで、今度は黙ったままで クーゴがシャワー口に向かって顔を上げると、水飛沫は一斉に 容赦無く彼を襲った。 シャワーの水を浴びたサイボーグの自分の腕を見つめる。 思い出す。今日と同じような、遠いあの日のことを。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ あの日の朝も、自然に眠りから覚めたクーゴだった。 やはり夏の一日で、夜明けて間もない時刻だった。 クーゴはベッドの中で横たわったまま、けだるげに遠い目をして 思った。 … とうとう今日が来た。俺が新しく生まれ変わる日。 未来に向かって違う一歩を踏み出す日が … クーゴはその日、ドッジ助教授の元に出向いて、約束通り サイボーグ改造手術を受けることが決まっていた。 外見はどんなに変わっても、心の中は変わらない。 クーゴにはそんな悠然とした自信があったから、何も躊躇はなかった。 この日のために努力して来たのだから。 早く起きて時間もあることだし、と、クーゴはパジャマ代わりに 着ていた黒のランニングを荒っぽく脱ぐと、鼻歌まじりに バスルームへと入って行った。 さらさらの髪。陽に灼けて締まった体は若々しく凛々しい。 十代のしなやかな筋肉。過酷な訓練によって形成されて、贅肉の かけらもない。そして、長く伸びた足。 広く厚い胸板に逞しい肩。すっきりと美しい腰の線。 艶やかな肌を伝ってこぼれる雫は、後から後から弾け飛ぶ。 だけど。 この姿を、この目で見るのはもうこれが最後なのだと気付いて、 クーゴの心は少し揺れた。 … 考えたってしょうがねえ。 俺はもっと強くなって、自分の力だけで生きて行かなきゃなんねえんだ。 ぐずぐずと感傷に浸るのはよせ、ジャン・クーゴ … クーゴは目を閉じ、水に打たれた頬を両手でパンパンと叩いて、 気合を入れる。 それからバスルームを出て、まっさらな白いコットンシャツを羽織ると、 窓を開け、洗い立ての髪を風になびかせた。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ あの夏の朝と同じように、今またクーゴは、落ちて来るシャワーの 水に打たれた頬を両手でパンパンと叩いてみせる。 あの時と気持ちは変わらない。 俺は、もっと強くなりたい。 ただ、昔は、自分のために強くなりたかった。 今は。 自分を必要としてくれる人達や、大事な友のために。 そして、オーロラ姫をずっと愛して行くために。 クーゴは遠い夏の朝と同じようにバスルームを出て、白いバスタオルで 髪の雫を押さえながら、窓辺に歩いて行く。 波音は繰り返し繰り返し続いている。 風がいつかのように優しく、クーゴの洗い立ての髪を揺らし、 過ぎて行った。


●2003・08・05更新

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