1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その43





「楽園で昼寝」   作・みなこ

コクピットから眺める宇宙は、何だかとってもちっぽけに見えた。 部屋の窓から見る夜空のように、箱庭の世界を楽しんでいるのに 似ている。でも一旦外へ飛び出せば、それはまさに無限の広がりを 持って迎えてくれる。 もう何ヶ月も、そんな星の海を航行しているクィーンコスモス号。 オーロラ姫も、クーゴも、ジョーゴも、ハッカも、お互いの性格の差や 育った環境の違いも乗り越えて、だんだん強い絆で結ばれて行く。 それでも時々、くだらない諍いはあるけれど。 退屈凌ぎに丁度いい、眠気覚まし的なハプニングだから、済めば カラッとしていてまるで兄弟喧嘩のようだ。 今日もそんな光景が繰り広げられている…。 「あ〜…。腹減った…もう死にそう。ねえ、ちょっと食事に行って来て いい…かなぁ?俺」 ハッカがシートに座ったまま落ち着かない様子で、腹を撫でている。 操縦席のクーゴが、振り返って大きな声を出す。 「はあー!?だってお前、1時間前に食ったばかりじゃねえのかよ?」 ジョーゴもただ呆れ顔でハッカを眺めるばかり。 「だってさぁ…。満腹になると眠くなると思ってさ、腹八分にしといたのが いけなかったんだよなぁ。こんなことなら腹一杯食っとけば良かったな」 ハッカは一応照れているのか、下を向いてもじもじと答える。 「あーもう、知らねえよ俺は。ついて行かれないね」 クーゴが前に向き直り、両手を頭の後ろへやって匙を投げている。 「おいハッカ」 ジョーゴが隣りに来て窘める。 「男は時には我慢も必要なんだぜ。それが強さの秘訣よ」 やれやれ、また薀蓄か? 「む〜…」 何とも気が済まない感じでいるハッカ。 そこへ、コクピットのドアが開き、今まで部屋で休んでいたオーロラ姫が 入って来た。 「皆さん、お茶にしませんか」 寛ぐ時に着る、ピンクの肩の出たドレス姿で、可愛らしく微笑む。 「あ!はーい!賛成!行きましょう行きましょう」 ハッカが身を乗り出してダイニングへ行き掛ける。 「姫、ハッカ2度目の食事だそうですよ」 ジョーゴが告げ口する。しまった、という顔のハッカ。 「まあ、ハッカさん。健康的ですね」 オーロラ姫はくすくす笑っている。 「健康的!?姫、食い過ぎは健康に悪いんですよ。たまにはハッカに 言ってやって下さい」 今日のジョーゴは中々手厳しい。 「ハッカさんが食欲なかったらハッカさんらしくないですからね。私は 何も言う事ありません」 しゃらっとジョーゴをかわす。 「姫はハッカに優しいよなあ」 クーゴの言いっぷりに、ハッカが嬉しそうな声を出して後押しする。 「たくさん食って、姫のために頑張るんだ!だから姫も応援してくれる ってわけさあ。ねー、姫?」 そう言うと、オーロラ姫はちょっと首を傾げて反論した。 「でも…やっぱりいつも食べ過ぎは…あまり体に良くないかも…」 途端にクーゴとジョーゴが吹き出した。 「ほれ見ろ。やっぱり姫だってそう思ってるんだよ」 「限度を知れ、ってことだな、ハッカ」 二人に小突かれて、ハッカは寂しそうである。 「冗談ですよ、ハッカさん。さあダイニングに行きましょう」 再び優しいオーロラ姫の声がかかり、フルオート操縦に設定をして、 4人はコクピットを出て行った…。 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ 優しい風が吹いていた。 目を開けると、真っ直ぐ先には広がる青空。心地良い自然な香り。 泥の惑星は復活したギャラクシーエネルギーの光に守られ、元の 美しい星に甦っていた。 広大な草原があり、そこはハッカが仕事の昼休みに良く訪れる場所。 今日は昼で仕事も終わり、食事の後にここへ来て、ついうたた寝を してしまったようだった。 懐かしく優しい夢を見ていた。幸せな風景だった。 ハッカは、楽しかったなあ…と、至福の笑みを浮かべて思う。 けれど、自分でも知らないうちに、一粒の涙が頬を伝って落ちた。 俺は、クーゴみたいなかっこいい真似出来ないし、 ジョーゴのような気配りが出来るタイプでもない。 俺が唯一相応しく自然でいられるのは、皆に笑ってもらえた時だけ。 本当のこと言えば。 振り向いてウィンクが様になるんだったら、やってる。 姫が安心するような、気の利いた台詞が簡単に言えたら、もう言ってる。 でも、そのどちらも俺らしくないもんな。 分が悪いのは承知してる。それでもいいんだ。 道化がいて初めて、アクロバット芸人や、魔術師が活きるんだよな。 役割ってのは大事さ。 ハッカは涙を残しながら、優しく笑った。 「あ〜!いたいた。やっぱりここだ」 離れたところから、ハッカの存在に気付いて近付く仲間がいる。 いつも一緒に仕事をしている後輩達。彼らも今日の仕事は終えて、 好きなように遊びに行ったのかと思いきや、ハッカを探しに来たらしい。 「ハッカさ〜ん!これから遊びに行きませんか」 お誘いがかかり、ハッカも手を振る。 「何だよ、とっくにどっか行っちまったのかと思ったら」 「ハッカさんがいないとどうもね。火が消えたようでつまんないじゃない ですかぁ。呼びに来ちゃいましたよ」 「ほんと、癒し系ですよね」 それぞれの言い様に、ハッカがすかさず答える。 「お前ら、ヒトを動物かなんかと間違えてない?」 そうぼやきながらも、ハッカの瞳は嬉しそうだった。 立ち上がり、皆のもとへ行こうとして、ふと振り返る。 いつも夜が来ると、ここから同じ星を見つめる。 今はまだ明るく、星は姿を見せないけれど。 今夜もまた来よう。 愛する人が住む、あのエメラルドグリーンの美しい星を見に。 ‥‥‥ ハッカさんに会いたくなったら、今は美しくなったあなたの 故郷、泥の惑星を、一生懸命見つめますよ ‥‥‥ 胸の中に広がるのは、別れる時にあの人がくれたその言葉。 今も支えになり、それだけで、明日も生きて行く励みに変わる。 来る日も来る日も、ずっと、変わることなく。 美しくなり、再生した泥の惑星。ここが、あらためてハッカには楽園。 「また見たいな…。さっきみたいな、幸せな夢」 柔らかく行き過ぎる風に頬を撫でられて、ハッカは目を閉じ思った。 また遠くの方で、仲間の呼ぶ声がする。 「ハッカさーん!早く」 「おー!今行く」 駆け出したハッカは、もういつもと変わらない明るさに溢れていた。 *‥‥‥‥‥*‥‥‥‥‥*‥‥‥‥‥*‥‥‥‥‥*‥‥‥‥‥*


●2003・09・26更新

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