1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その45





「星の誘惑」   作・みなこ

長く苦難続きのギララ星系を、クィーンコスモス号はもうすぐ 離れようとしていた。近付く大王星へと真っ直ぐ向かって。 銀河の流れは、ひとまず落ち着いている。 まだまだ一騒動二騒動有るのだろうが、とりあえず。 交代制でコクピットに居る役目は、今夜はクーゴだ。 ハッカとジョーゴは一眠りするために、部屋へ行ってしばらく 経つ。オーロラ姫も休んでいる。 クーゴはひとりで操縦席に座り、真っ直ぐに星の海を見つめて いた。 旅の疲れ、戦いの苦労、そんなものは簡単には癒えないが、 こうして今は静かに流れている銀河宇宙を見ていると、 心洗われる思いだった。 クーゴが珍しくそんな気分に浸っていると、コクピットのドアが 小さく音を立てて開いた。 振り返ると、ドレス姿のオーロラ姫が立っている。 「あ、あれ?姫、どうしたんだい?まだ休んでいたほうが」 クーゴはシートに手をかけた体勢で、姫に話しかける。 オーロラ姫は、静かに微笑んでクーゴの方へ歩み寄った。 「ありがとうクーゴさん。でも、何だか嫌な夢を見てしまって、 寝ていられなくて。ここにいてもいいですか?」 クーゴは、安心したような照れくさそうな笑顔を作り、答える。 「もちろんだよ、姫。さ、どうぞどうぞ」 オーロラ姫も安堵した表情になり、クーゴの隣りのシートに そっと座った。そのまま、目の前の星々に目を遣る。 クーゴはそっと、オーロラ姫の方を見て言った。 「大丈夫かい姫?ギララ星系では辛いことばかりだったから、 夢見も悪いよな。嫌なこともあるけど、でも、大王星はもうすぐさ」 クーゴの気遣いが嬉しい。 オーロラ姫は優しく微笑み返す。 いつからか、クーゴはこんなことも自然に口に出来るようになって いて、心の中で、オーロラ姫は感動していた。 まだまだ意地っ張りだったり照れ屋だったりするけれど、時々、 クーゴはやけに大人の男性だと思えることもある。 こうして、ひやかされたりしない相手と、静かに向き合っていると 人というのは素直になれるのだろう。 そんな風な思いで、オーロラ姫がクーゴを見つめていると、 クーゴが困ったような顔で言った。 「なんだい姫?まだ疲れてんじゃないかな、やっぱり休んでた方が」 その瞳がちょっとはにかんでいて、オーロラ姫はつられて笑顔に なる。 「いえ、大丈夫です。クーゴさんと話していて、だんだん落ち着いて 来ました」 そういう言葉をかけられて、クーゴもつい有頂天になる。 「やっだなあ〜姫。そんなこと言っちゃってー」 「あっ、流れ星!」 急にクーゴの言葉を遮って、オーロラ姫が嬉しそうな声を上げた。 「え?どこどこ?」 クーゴもてんで怯まず、一緒になって前方を見る。 「こんな宇宙の真ん中で、また流星を見られるなんて。旅を始めた ばかりの頃も、一度矢のように降ったことがありましたね」 オーロラ姫は、うっとりと、時々光るそれを見つめながら言った。 クーゴの瞳も感慨深げだった。 旅を始めたのがまるで昨日のことのように思える。 色んなことがいっぱいあったのに。 そうか。その長い旅ももうすぐ終わろうとしている。 クーゴの瞳が少し切ない色に変わった。 オーロラ姫は、クーゴの方を再び向いて、話しかける。 「クーゴさん、ごめんなさい」 クーゴはオーロラ姫の言葉に驚いて、向き直った。 見ると、オーロラ姫の瞳も少し寂しそうに揺れている。 「なんだよ姫。なんで謝ったりするんだ」 戸惑い、照れたようになるクーゴ。 「私は、クーゴさんにした仕打ちをちゃんとお詫びしていなかった。 クーゴさんがいなかったら、ここまで来れなかったでしょう。 だから、ごめんなさい。そしてありがとう…」 ベムラの陰謀でバラバラになった時のことを言ってるのか。 「姫…、姫が謝ることなんかないんだよ」 クーゴはオーロラ姫を、何とも言えない愛しく思う目で見つめる。 オーロラ姫の瞳がそれでも切ない色をして、クーゴを見ていた。 クーゴは向き合ったオーロラ姫の白く細い指先に、そっと自分の 手を置いた。もういいから、と言い聞かせるように。 二人の瞳の中に、それぞれの姿が映っている。 あの、誤解が解けて、再会した時のように。 そのまま、時間が止まる。そして。 ビーービーービーービーーッッッ!! 突然響き渡る警報ブザー。 夢から醒めるかのように、二人は我に返り、情報コンピュータ に目を移す。折角のムーディーな一瞬はかき消され、また 騒動再開らしい。 ハッカとジョーゴも勇んで飛んで来た。 先程までのロマンティックなどまるでなかったかのように、 クーゴもオーロラ姫もいつも通りに戻っている。 ほんの束の間の、星の悪戯か、それとも誘惑か…。 夢のような時間がまた訪れることはないかも知れないけれど。 忘れずに行こう。 切なく嬉しいひとときを積み重ねて。 もう少しだけ。一緒にいられるのは。だからこそ…。 そしてクィーンコスモス号は進んで行く。銀河の中を。 ちょっとした秘密、変わらない想いを乗せて。


●2004・03・11更新

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