オーロラ姫が大王星の新しい女王になり、数年の時が流れた。
                       滅びの淵に立っていた銀河宇宙は、再び生きる力を取り戻し、
                       新たな時代を迎えたのである。
                       
                       オーロラ姫の騎士の１人として、大王星への苦難の旅を共にしたジャン＝クーゴは、
                       その任の終わりにあたり、一つの決意をしていた。
                       
                       「……強く……強くなりたい……誰よりも、何よりも……」
                       
                       その思いを確かなものにしたくて、彼は大王星を辞した後、自ら志願して、
                       特に荒廃の著しい銀河宇宙辺境部の惑星復興援助及び難民救済に赴いた。
                       辺境部は多くの太陽系が集まる銀河の中心部と異なり、
                       僅かな星々が点在しているばかりである。
                       開発が遅れ、資源も乏しい。
                       しかし、それ故にスペースモンスターの襲撃から逃れ、隠れ住む者が多かった。
                       クーゴは、それらの人々に銀河宇宙の危機が去ったことを知らせたり、
                       彼らが故郷の星に帰る手助けをした。星を失った人々には、移住できそうな星を探した。
                       それは、彼の想像を遥かに超えた困難な仕事であった。
                       
                       ＺＺ１０８−ＸＺ１３惑星系は、銀河系の縁近くに位置する
                       小さな星の集まりで構成された宇宙である。
                       中心になる太陽が無く、惑星は、それぞれ自分のもつエネルギーで、
                       てんでバラバラに宇宙空間で自転している。
                       惑星の数は、僅かに５個。辛うじてお互いの持つ引力が干渉しあっているため、
                       衝突することだけは避けられているという状態のため、
                       もちろん生物が生息できる環境にはなく、さすがに難民たちも住んではいない。
                       しかし、何故かクーゴはここがとても気に入っていた。
                       中でも、４番目の惑星、便宜的に「ＺＺ１０８−ＸＺ１３−４」と
                       認証されている小さな惑星が好きだった。
                       各星域を行き来する際に、必ずといっていいほど、ここを休憩地にしていた。
                       大きさは、クーゴの故郷、地球と月との中間ほどの大きさで、
                       今は僅かな大気に包まれている。
                       今は……と言うのは、クーゴが初めてこの惑星に降り立った時には、
                       大昔の月のように不毛の大地、沈黙の惑星だったのである。
                       それが、ここ１年ほどの間に、どのような加減であろうか、
                       惑星は少しずつ大気をその身にまとい始めたのである。
                       
                       「……何だか、ヘッドギアとっても平気そうだよな……」
                       
                       寝転んだ何も無い大地から、天を見上げてクーゴが呟いた。
                       生物を拒んでいた筈の地面も、気のせいか暖かい。
                       クーゴの手が、パチリとギアのロックを外す。
                       途端、彼の胸にどこか懐かしい空気が満ち溢れた。
                       
                       ……ポトリ……
                       
                       クーゴの頬に涙が零れる。
                       いや、涙ではない。
                       それは、この惑星に初めて生まれた命の源だった。
                       
                       「……雨？！……まさか、こんなことって……」
                       
                       驚いて立ち上がったクーゴは、スタークローについている探査装置で、
                       惑星を分析してみる。
                       
                       「……信じられない……太古の地球と同じだ……」
                       
                       満ち溢れる大気も、降り注ぐ雨も、
                       その昔、地球には、当たり前のように存在していたものだった。
                       太陽も無いこの星に、なぜこんな力があるのだろう。
                       困惑したクーゴは、キティ博士に報告しようとして、
                       誤って別のスイッチを入れてしまった。
                       スタークローの位置を示すレーダーが、点滅を始める。
                       何度も訪れたこの星の軌跡を銀河系星系図にシュミレートしながら。
                       
                       「……廻っている……この星は、ただでたらめに宇宙に浮遊してる訳じゃない。
                       太陽がなくても、いや、この星の太陽は……ちゃんとある。
                       ……大王星……この星の太陽は、大王星なんだ。」
                       
                       星系図の中心は、大王星。名も無きこの星の命の源は、
                       生きようとするこの惑星の意思と、大王星からのギャラクシーエネルギー。
                       
                       「……届いてるよ……オーロラ姫……」
                       
                       胸の星を硬く握り締め、降り注ぐ雨を全身で受け止めながら、
                       クーゴは、静かに微笑んだ。
                       
                       
                       「博士！キティ博士！」
                       「どうしました？クーゴ。何か事件でも」
                       「キティ博士！ＺＺ１０８−ＸＺ１３−４のことなんだけどよ。
                       俺に名前付けさせてくれるって言ってたよな。」
                       「ええ、あなたが見つけた惑星ですから。何かいい名前見つかりましたか。」
                       「こりゃ！クーゴ、変な名前付けたら承知せんぞっ！」
                       通信機の向うで、懐かしい声がする。
                       その声が心地良い大気に乗って運ばれていく。
                       
                       「この惑星の名前は、エイチ、アイ、エム、イー。
                       <ＨＩＭＥ>ちゃんと登録してくれよ。ドジ助教授！」
                       「ドジじゃないっ！ドッジじゃ〜！」
                       
                       
                       怒鳴り声の響く通信機のスイッチをプツリと切ってクーゴが走り出す。
                       雨水が、ゆっくりと大地を潤していく。
                       
                       「……これなら、きっと大丈夫……。
                       そっと開いた手に、小さな小さな黒い種。
                       それは大王星に咲く可憐な白い花の種だった。
                       
                       「……この星が……花で一杯になったら……俺は……」
                       
                       真っ直ぐに前を見つめてクーゴが歩き出す。
                       飲み込んだ言葉は、彼の中で、確かな形に変化した。
                       
                       
                       
                       どんなに遠くても……
                       あなたの心は、ここにある
                       強く……強くなりたい
                       誰よりも……何よりも…
                       力ではなく……想いであなたを守れるように






　　　　●み〜めさんのＨＰ「しゅーるな部屋」 （「スタジンの間」）より転載させて頂きました。
　　　　２００２・０９・０９更新








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