1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その53





「夢のあと」   作・みなこ

星の光もまばらだ。 ガラス越しの暗い宇宙を横目に見遣りながら、ベラミスは コズモマシンの操縦席で息を吐く。 付かず離れずの距離を置いて、コズモマシンに並ぶように スタークローも滑走している。 とうとう、待ち望んだ時がやって来た。 まさに宿敵との勝負の火蓋が切って落とされようとしている。 ベラミスはヘルメットのフードを細長い指先で持ち上げ、 かすかに唇を噛み締めた。意気を確認するかのように。 この漆黒の闇を抜けて、次の星雲を越えたところに、 誰にも邪魔されることなく一対一になれる小惑星が在る。 ライバル同士は覚悟を決めて対決の舞台へと急ぐ。 宇宙の静寂の中で、それに従うかのように、ベラミスも 口をつぐんでいた。小惑星に辿り着くまでの間、決意を 胸に刻み込むために沈黙していたかった。 けれど、スタークローの中でクーゴが、通信機の音声で 彼女の名を呼んだ。 「ベラミス」 言葉では答えない。 宇宙艇の窓越しに、スタークローのクーゴの顔を振り返った。 …… 何が言いたい?何も言うな、クーゴ。…… ベラミスの青い瞳が刺すような光を放つ。 それでもクーゴは、顔色を変えることなく語り始めた。 「ベラミス、おまえは明日に向かえないのか?」 いつものクーゴのような台詞ではない。 何故そんな言い方をする? だがベラミスは平気な素振りで前方に視線を移し、 冷笑してみせた。 「どういう意味だ?クーゴ。私はいつでも明日のために生きている。 新しい未来を作るためにやり遂げることはやる。誰にも指図は受けない」 言葉の最後の方で、星がひとつ流れて光った。 クーゴも進路に目を移し、静かな表情で、でも真っ直ぐな瞳でつぶやく。 「おまえは過去にこだわってるんだ、ベラミス。常にな。 明日だけ見て生きていたら、終わったことに決着をつけようと言わない」 スタークローの操縦桿をいつもより力強く握り締め、クーゴは そう言った。さらに、続ける。 「終わっちまったことに縛られて、それでいいのか?ベラミス。 大事なのは今じゃねえのか。これからが大事とは思わないのか?」 もう一度窓越しのベラミスの横顔を見つめて。 コズモマシンが速度を上げ、スタークローから離れて前へ出た。 ベラミスは答えない。表情も変わらない。 目指していた小惑星が近付く。手前にあるらしき星雲が見えて来る。 本当は、勝負したかったのではない。 お前を追うために明日を夢見ることを捨てたのだ。 そして、それを知られるくらいなら、刺し違えてもいいとさえ思う。 そう感じながら、でもどこかでまた、クーゴの本心は、自分の 本心を見抜いていたかも知れないと疑っている。 分からないふりをして本当は分かっているのか。だとしたら。 この勝負、最初から私の負けだ、クーゴ。 負けと承知の上でそれでも挑まなければならない私を、哀れと 思って諭すのか? …………… 暗い宇宙は続いていた。 遠いところを旅して帰って来たかのように、ベラミスは浅い眠りから目覚めた。 …… 今のは夢か… …… フルオート操縦に切り替えたコズモマシンの進路が、いつしか大王星を指していた。 ギューマ、ラセツ軍団亡き後、再びひとりで銀河を漂流している。 クーゴの後を追ってどうしようというのだ。 そう自分に言い聞かせながら、潔く新天地を探す気力もなく流されて行く。 「決着をつけなければならないのは、私自身の気持ちか…」 ベラミスは、遠いどこかを切なく見つめてため息を吐いた。


●2009・09・01更新

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