1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その54





「夢のあと  −クーゴ編−」   作・みなこ

雪原のように白い色をした大地が、どこまでもうねるように続いている。 空は悲しいような暗さだ。 草も木も水も無い、ただずっと遠くまで広がる荒野のような 世界の真ん中に、二つの人影が存在した。 各々は向き合って離れて立ち、緊迫した気配が重々しい。 「勝負だ!クーゴ」 ベラミスが静寂を破って先に言葉を放った。 「来い!ベラミス」 クーゴも受け止める。 宙を舞う黒いマント。 本気を出した時にベラミスがそれを体から剥がすように 放ることを、誰よりもクーゴは心得ていた。 アストロボーを力強く握り締め、攻防の構えを取る。 ベラミスがその漆黒の髪をなびかせ走って来る。 電磁剣が放つ稲妻のような閃光をかわし、クーゴも アストロボーを掴んで立ち回る。 ややあってお互いがまた距離を保ち、そして次に再び交戦開始となった。 そして何故か、ベラミスが一瞬ふっと表情を緩めた。 離れた場所からでもそれはクーゴの目に入り、ベラミスが 何かを考えている、と感じた瞬間だった。 真っ直ぐにクーゴを目指して走って来る。 さっきの疑問を帳消しにするかのように鋭い目線で。 そして。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 「ベラミス!!」 クーゴの叫ぶ声は、星の彼方までこだまするかのように大きく強く響いた。 ベラミスはクーゴの腕の中に居た。 クーゴに破れて崩れ落ちたところを、クーゴが支えた。 頑丈な左腕に頭を載せられ、全てを終えて燃焼したかの ような憔悴と達成感を湛え、ベラミスは微笑みさえ浮かべた。 「ベラミス…しっかりしろ!ベラミス!!」 目の前に、熱く真剣な鳶色の瞳がある。 子供の頃はやんちゃだったに違いない、いや今もまだ充分、 そう感じさせる愛嬌のある、けれど力強い瞳。 でもその瞳が優しく見つめるのは、別の人…。 「これで…いい。クーゴ」 ベラミスはかすかな力を出し切るように呟く。 「ベラミス!この…馬鹿野郎」 クーゴは、切ないともやるせないとも悲しいとも取れる、 そして何でこんなことになったのかと後悔しているような 苦しそうな表情で、やっとの思いで答えた。 ベラミスはわざと負けたのだ。かかって来るふりをして 本当は撃たれるために自らを投じたのだ。 それが何故なのか痛いくらい分かるクーゴだから、 それ以上追究することは出来ない。 クーゴの腕に持たせた頭を少しもたげるようにして ベラミスはため息をもらす。艶やかな黒髪が風に揺れる。 白い頬を一筋、美しく流れるものがあった。 「ベラミス…!死ぬな、ベラミス!」 白い大地に、空の果てに、クーゴの叫びが響き続けた。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 「クーゴさん、クーゴさん!」 遠い記憶から呼び覚まされて、自分の名を連呼する声に 起こされ、クーゴは目を開けた。 明るい光。コクピットの計器の音。そして。 目の前に、白い華奢な鎖骨があった。 悪夢にうなされたクーゴを気遣い、起こして支えてくれていた。 オーロラ姫の鎖骨。 細く長い首元から肩へ優しいカーブを描き、その下にある まるで絵のように綺麗なラインをしたくぼみ。 一瞬、何が起きているのか朦朧とした頭で考えたクーゴは ようやく現実に戻って来た。 「ああ…姫」 それを確認して安堵したオーロラ姫が、軽く微笑む。 「良かった。ひどくうなされていたんですよ、クーゴさん。 心配したわ」 支えていた手をさりげなく離すと、隣のシートに腰を下ろす。 肩が大きく開いたピンクのロングドレス。上品に座る際に 裾が衣擦れの柔らかな音を立て翻った。 自室で寛いでいた筈であろう服装で、姫が今はそばに居る。 「ごめんよ姫。休んでいたんだろうに。見張り当番の俺 としたことがうたたねしちまうなんて」 クーゴはやっと本来の元気を取り戻した様子で頭をかき、 バツが悪そうに笑った。 「いいえ。クーゴさんは戦いから帰ったばかりで疲れている のです。気になって交代しようと思い来てみて良かった」 聖母のような微笑み。癒すような優しい瞳。 見ていた悪夢を忘れさせてくれるような穏やかな言葉。 「悪い夢を見ていたのでしょう。休んで下さい」 「いや…。大丈夫だよ。それにこのエリアは比較的安全 だってジョーゴのお墨付きだ」 そう言って横を向くクーゴの瞳が少し翳って見える。 ベラミス。 何であんな夢、見たんだ? 疑問とやり切れないような思い。 ベラミスのことを考えているクーゴの表情は少し晴れない。 オーロラ姫は何かを感じ取り、少しだけ切ない目をして けれど何も無かったかのように静かに同じ前を見つめる。 それを察したかのように我に返ったクーゴが彼女を見つめ直す。 姫の鎖骨。 綺麗だったなぁ。 目が覚めて一番最初に飛び込んで来たのがあの鎖骨だった。 一瞬何が起きたのかと思った。 姫が俺を支えていてくれたんだ。 その華奢なくぼみに、落ちたシャワーのしずくがまるで芸術品 のように停留するのだろうかと、クーゴはあらぬ妄想までした。 そう考えたのも束の間、ハッとなり、一人でまた頭をかく。 頑強なサイボーグのくせにこんなに心がざわざわするなんて。 どうしたっていうんだ、しっかりしろ、ジャン・クーゴ。 ・・・・・・・・・・・・・・・ 突然の警報ブザー。 クーゴもオーロラ姫もハッとなり身構える。 スクリーンに映し出される乱気流の様子。 その後ろにギューマ軍団亡き後放浪し続ける生き残りの モンスターの影がちらつく。 クーゴはそばにあったヘルメットを片手に持ち、シートを 軽々と飛び越える。 「安全だって言ってたのに全く、どういうことでしょうねー! せっかく二人きりだったのに、お邪魔虫だな! んじゃ、行って来ます!姫」 姫に向かい少年のように大きく笑うと、開いたドアから 颯爽と走り去って行く。 オーロラ姫は、クーゴが去った方角を向いたまま いたずらっ子をたしなめるような笑顔をして見せた。


●2009・09・03更新

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