1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その7



イラスト・アントニオ9935



「引力」   作・にいな

「男と女の間にはさ、友情って成立しにくいもんかな?」 そう言ったクーゴを、ジョーゴはまじまじと見つめてしまった。 三人の戦士は大王星に来て、女王――彼らが今でも姫と呼んでいるオーロラ――と、 会う事を許されている。 三人が、自分の故郷だけでなく、銀河系の星々のために働いているから。 今日も大王星に集まって話をしていたのだが、オーロラとハッカが席を外した時、 クーゴがポツリと言ったのだ。 言われたジョーゴの頭には、ベラミスが浮かんだ。 しばし考えて、ジョーゴが話そうとした時、ハッカが戻って来た。 その後クーゴは投げかけた疑問を口にする事はなかったので、 その話はそれっきりになった。 もしや独り言だったのか。 どちらにしても。 投げかけられたジョーゴの方は、気になっていた。 大王星への旅が終わった後、クーゴは地球に帰って来てしばらくは、何もやる 気が起きなかった。 キティ博士とドッジ助教授は、そんなクーゴを黙って見守っていた。 しかし、いつまでも甘えているわけにはいかない。 クーゴはキティ研究所で、博士の手伝いをする事にした。 望むなら宇宙開発局への紹介状を書くと言うキティ博士の申し出を断って、 クーゴは博士の手伝いをしながら、銀河系の平和のために働きたいと言った。 地球はギャラクシーエネルギーが弱まった影響を深刻には受けなかったので、 自力で復興出来る。 しかし、銀河系の星々の中には、他からの協力が必要な星もある。 キティ博士の科学を、協力に活かしたいと、クーゴは銀河系を飛び回っていた。 そして今日は、身近な地球の月に来ていた。 月の王国が壊滅した後、荒廃していた月に、新たな都市が建設される事となり、 キティ博士の開発したある装置の設置を見届けるのが仕事だった。 それを終わらせて、クーゴはまだ開発の手がつけられていない場所へと来た。 見渡す限り、荒野が広がっている。 時折、風が吹く。 オゾン発生装置により、空気は満ちていた。 クーゴは膝をつき、手で土に触れる。 ここは、以前クーゴがドームに閉じ込められていた場所だった。 そしてオーロラと、初めて出会った場所。 振り返ると、宇宙港が見える。 そのうちここも、緑豊かな土地となるか、高層ビル群が立ち並ぶか、 いずれ変わっていく。 「変わっていくんだよな…」 思い出の場所には、そのままでいて欲しい。 叶わぬ望みと解っているが、つい願ってしまう。 クーゴは一つ溜息を吐いたが、意を決して立ち上がった。 「帰るか」 けれど、宇宙港に置いてあるスタークローは呼ばずに、ここを忘れないように と思ってか、大地を踏み締め、ゆっくりと港に歩いて行く。 そのクーゴの頭上を宇宙船が通った。 物資を運んで来たのだろう。 あっという間にその宇宙船は港に着陸した。 それが何だか寂しい風景に見え、クーゴの歩みがさらにゆっくりとなる。 普段は星から星へ、超スピードで行き来しているのに。 どうも感傷的になっていけねえや。 と思った時である。 「おーい、クーゴ!」 ヘルメットの通信機から、聞き慣れた声が聞こえた。 「ああ、ジョーゴか。どうした?」 条件反射に答えてから気付く。 なんでジョーゴがここに? 思わず空を見上げると、見慣れたスターカッパーが飛んでいた。 「キティ博士に会いに行く途中なんだ」 ジョーゴの故郷の星、水の惑星の復興も、博士に協力してもらっている。 その礼に会いに来たとコンタクトを取ると、今クーゴが月にいるから、一緒に いらっしゃいとキティ博士が言ったという。 スターカッパーがクーゴの近くに降りて来る。 クーゴはあることを思い出した。 復興が進む水の惑星を一度訪ねた時、水面に浮かぶ睡蓮に似たような花を見た。 地球の睡蓮は赤や白の花だが、水の惑星のその花の色は、青紫だった。 その青紫の花が、ガラスの器に張った水に一輪浮かべられて、置かれていた。 彼女の墓に。 置いたのはジョーゴに間違いないと思うのだが、いったい何故。 彼女との関わりは少なかったのに。 俺があんな質問をしたからか? とにかく理由を訊こうと思っていたことを、思い出した。 「どうしたクーゴ、ぼんやりして」 「いや別に。久しぶりだな」 「ああ。あれが地球か。ふ〜ん…」 月から見える地球を眺めて、ジョーゴは何か考え込んでいる。 なかなか忙しい身であるゆえに、彼が地球に来るのは初めてだった。 忙しい合間を縫って優先的に向かうのは、大王星だが。 「なんだよ、来る途中から見えてただろ?」 「月は姫の故郷だよな。幼い頃の姫は、こうやって地球を眺めていたのかと思ってな」 そう思って感慨に耽っていたらしい。 冷静で落ち着いていて紳士なジョーゴとて、愛する女性の事を知りたいと思うのは、 男として自然な気持ち。 いいけどさ、俺も人の事は言えねえし。 「あー、姫がいた頃と、今の月は違うけどさ。まあ、月の王国が出来る前は、 こういう風景だっただろうな」 「文明が築かれる前の惑星というのは、どこも似たようなものだろう」 ジョーゴと二人で眺めるのも、変な感じだ。 「そろそろ行くか。案内してくれるんだろう?研究所まで」 「OK、俺の仕事は終わってるからな。スタークロー!」 感傷的な気分はどこかへ行った。 クーゴが元気良く呼ぶと、すぐにスタークローはやって来た。 二人は揃って地球に向かった。 キティ博士に会って礼を述べ、水の惑星の現状から世間話まで、多岐に渡って 話した後、クーゴの案内で、ジョーゴは街などを回った。 せっかくだから一泊するとジョーゴが言い出して、キティ研究所の客室に泊ま る事になった。 博士と一緒に夕食を取った後、クーゴとジョーゴは、客室でウイスキーを飲み 始めた。 ジョーゴはウイスキーが口に合うようだった。 広い客室の壁には、太陽系や他の天体の星図が貼られている。 「宇宙にいるみたいだな…」 窓を開けると満天の星。 「あ、あれが月だぜ。今夜は三日月か」 「ふ〜ん…」 ジョーゴはグラスを持って、三日月を見上げる。 やっぱり訊くなら今かなと、クーゴが思う。 「クーゴ」 「えっ、あああ、なんだ?」 自分の心を読まれて呼ばれたようで、慌てるクーゴ。 「男と女の友情ってやつだがな」 「うん」 「人それぞれ、その時による。上手く行く時もあるし、ダメな時もある」 クーゴはがっくりとした。 「それは一般論じゃねえか…」 「そうだ」 「あのなあ」 「ベラミスとのことか?今更考えてどうなる?彼女はもういないんだ」 その言葉は、クーゴの胸に刺さって抜けない、小さな棘を刺激した。 微かな痛みを感じて、クーゴは項垂れた。 ジョーゴはテーブルにグラスを置いて、椅子に座った。 「改めて思い返せば、彼女がお前をどう思っていたのか、察しはつくが」 とは言うものの、大王星への旅の最中は、ジョーゴは深く考えていなかった。 ベラミスは戦士として強く、知略も優れていた。星をなくした者達への情けも あった、まさに好敵手。 しかしジョーゴにとっては、やはりオーロラ姫を狙うベラミスは、敵である、 との認識が先だった。 ギューマ・ラセツ軍団が滅びた後は、悪に手を貸した自分を、ベラミスは後悔 しているようだった。 そう感じたから、大王星の月で光量子のモンスターに立ち向かったのは、償い ではないかと思った。 そう思って終わりのはずだったのだが、クーゴに男女の友情という疑問を投げ かけられて、それから水の惑星に戻る途中で、考え直してみた。 愛用の電卓を出したが、じっと見つめた後、徐に仕舞った。 人の心は、計り知れないことがある。 「だが、もういないから、クーゴ、お前が思い詰めることはないだろう」 「思い詰めてるわけじゃ…ジョーゴはどうなんだ」 クーゴも窓辺を離れ、椅子に座る。 「何が?」 「彼女の墓に、青紫の花を置いていたのは、お前だろ?なんでだよ」 ウイスキーを呷ってから、問い質す。 「あれか…あれは…感謝と謝罪の気持ちから、かな」 「感謝は、あの時のモンスターを倒した事か?じゃあ、謝罪ってのは」 ジョーゴのグラスの中の氷が、カランと音を立てた。 「あの時、俺達がもっと早く行動を起こせば、彼女は死なずに済んだ」 ジョーゴは目を瞑った。 あの時、ベラミスが来ても来なくても、大王星へ行くために、クーゴ達はモン スターを倒さなくてはならなかった。 キティ博士から作戦を授けてもらったのだから、行動を起こすべきだったのだ。 いくらベラミスが敵だったとはいえ、死んでもいいなんて事はない。 すべての生命を大切にする、それがオーロラ姫から教わった事だ。 それなのに、ベラミスの援護をしなかった。 そんなことに気付かずに、自分はありがとうと叫んだ。 後悔しても、言葉は消せない。 目を開けて、ジョーゴはウイスキーを飲んだ。 「ジョーゴ、お前が気にする事はないよ…」 死ぬ気のベラミスに気付いた、俺こそが何としても助けるべきだった。 「今更言っても、どうにもならないんだし…」 どうにもならないと、いつもその結論が出るのに、ついジョーゴに零してしま って、クーゴは申し訳ない気分だった。 「そうだ。俺達に出来るのは、二度と同じ過ちをしない事だな」 ジョーゴがきっぱりと言って、ウイスキーをなみなみと注ぎ、また飲む。 しばらく沈黙が流れた後。 「あれだな、こう、『生きるんだ、ばかやろう!』とでも言って諭すんだった かな」 「はあ?」 ジョーゴらしくない諭し方なんじゃないか、それは。酔っ払ってんのか? 「彼女は、進む道が一つしかないと思ったかもしれないが……生きていれば、 たくさん道はあったはずだ。可能性は色々あるんだ、と言えば良かった」 「うん…」 クーゴは頷きながら、ジョーゴって説教上戸かもなと思い始めた。 「俺は一度姫と別れた時は、なんかこう、二度と姫と会えない絶望感に満ちて、 生きがいがなくなって、どうしようかと思ったよ」 「うんうん、俺も、確かに」 「しかし、また会えただろう。その後別れは来るんだが、吹っ切ったというか」 「そうだなぁ」 「希望に満ちた別れというか。生きてさえいれば、会えると思ってな」 その思いを胸に、みんなで銀河系の平和の為に働いていたら認められ、大王星 に行き来出来るようになり、オーロラとも会えるようになった。 二度と会えないという道しかないと思っていたが、他の道が拓けた。 「思い続けることも大事だよな」 オーロラを愛する気持ちがあるからこそ。 「ああ……俺達は、姫という太陽の周りを回る惑星だよな」 「大王星じゃねえのか?」 「いや、あれが解りやすいかと思って。さっきから気になってな」 ジョーゴが指差したのは、壁に貼られている太陽系図。 「姫が太陽で、俺達が惑星」 姫の引力に引かれながらも、互いのバランスを保って回る惑星達。 「お前は地球だな。月がいるし」 「月って言うのは…」 「ったく、自分で考えろ」 「ハイハイ。悪かったな、難しい相談をして」 「難しくても、友人の相談に乗るのは、当然だ」 言ってジョーゴがウインクする。 「サンキュー」 カチン。 クーゴはジョーゴのグラスにグラスを合わせた。 「なんつーか、ジョーゴの奴は、あの星図を見る前から、解っていたよな」 クーゴは大王星の月に来て、ベラミスの墓に向かっていた。 姫が太陽で、クーゴ達が惑星。 クーゴが地球だとしたら、月は。 地球の引力に引かれている月は、ベラミス。 やはりバランスを保って、近付き過ぎたりはしない。 ベラミスが生きていたら、彼女の愛に応えられなくても、良い関係を築ける道 はあったはず。 地球と月のように。 けれど、彼女はもういない。 クーゴが墓に辿り着くと、まだジョーゴが置いた花があった。 その後にクーゴは紅紫の牡丹の花を置いていたが、それも残っている。 オーロラはまだ訪れていないようだ。 青紫の花は水に浮かんでいるからか、不思議な事に瑞々しく、牡丹の方も枯れ てはいなかった。 「ジョーゴの思いは届いたよな…」 ガラスの器と牡丹をずらし、クーゴは墓前に白百合の花束を置く。 「忘れないよ」 クーゴの胸の、小さな棘は消えていた。 「ここも月だな」 代わりに、月の存在で、ベラミスを感じる。 「また来るぜ」 長い付き合いになる。 手を振った後、ガラスの器と牡丹を持って、丘を降りた。 大王星の月には、小さな泉があった。 溜まった泉の水に、クーゴは青紫の花と紅紫の牡丹の花を浮かべた。 すぐ近くまで、よく見かける小動物が来ている。 「食うんじゃねえぞ」 言われた彼らは、チチッと答えた。 スタークローが飛び立つ。 大王星の輝きに引かれながらも、クーゴは地球へと進路を向けた。



●2002・9・16更新





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