1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



スタジン小説 その8



イラスト・ヴァシュタール



「Miracle」   作・にいな

出会えたのは、奇跡――― 闇が続いている。 いつまでも、どこまでも。 歩いても歩いても、出口が見えて来ない。 そんな感じだった。 歩いているのか、私は。 それすらも、よく解らない闇の中。 私は、どこへ向かっているのか。 『……大王星に……』 どこからか、声が聞こえた。 大王星?そうだ、大王星に向かっていた。 『……大王星に行こう……』 誘う声が、優しく響いてくる。 でも、もう疲れた。 こんな闇の中を歩くのは。 それに、なんだか体が冷たく感じる。 もう動けない。 そう思って立ち止まった。 『……大王星に行こう……』 もういいんだ。私の事は放っておいて、行ってくれ。 『一緒に大王星に行こう!』 いきなり強く響いてきた。 と同時に、あらゆる事が頭をよぎった。 「クーゴ……」 愛しい人の名前を呟く。 『一緒に大王星に行こう』 「でも、私はその手を取らなかった……」 冷たい頬を、何かが伝って流れて行く。 瞬きする度に、零れ落ちる粒。 「涙?……何故、泣ける?私は……」 死んだはずだ。 『さようなら、ジャン・クーゴ』 最後に思ったのは、クーゴの事だった。 その後の記憶は、ない。 気付いたら、この闇。 「これは、死者が通る道か?それとも、ここが死者の国か……」 『一緒に大王星に行こう』 まだ響いてくるクーゴの声に。 「……行きたかっ、た……」 思いを抑えられずに答える。 涙が、あとからあとから、溢れてくる。 クーゴが、オーロラを、愛していてもいい。 自分は、友人でもいい。 ただ、一緒にいて、笑って、怒って、喜んで、泣いて。 そんなささやかな日常を、クーゴと一緒に過ごしたかった。 けれど、もう叶わない望み。 他の誰でもない、自分に決着をつけて、死を選んだ。 ベラミスは、闇の中で、声を上げて泣いた。 思い切り泣いて。 「行きたかった……生きたかった……!!」 そうして、自分の本当の心を知った。 心から叫んだ時、世界が明るくなった。 光が見える。 久しぶりに見た光に、ベラミスは目を細めた。 「眩しい……」 でも、ずっと闇の中にいた自分には、とても暖かい光。 暖かい? ベラミスは、自分の頬に触れようと手を動かしたが、力が入らない。 「う……」 体が重く、動かない。 「まだ、動いてはいけません」 誰かが、顔を覗き込んで来た。 「誰、だ……」 ベラミスの問いに、その人はにこりと微笑んだ。 年老いた女性で、その微笑みは慈愛に満ちていた。 「あなたは、ずっと生死の境をさ迷っていたのです。まだ、安静が必要です」 「……私は、生きているのか……?」 ベラミスは信じられない思いだった。 女性はこくりと頷いた。 「あなたは、生きています。そして、先程まで、生きたいとうわ言を繰り返していました」 「え……」 「望み通り、生きるのです」 女性は強く諭して、背を向けた。 「あの、あなたは、ここは、いったい……」 ベラミスは、後ろ姿に問いかける。 「ここは大王星。私は大王星の女王。いえ、今は、元女王です」 そう告げて、その場を去った。 数日すると、ベラミスは半身を起こせるまでになった。 「私はもう、私の前で、誰かが死ぬのを見るのは、嫌だったのです」 大王星の元女王は、ベラミスに、助けた理由を訊かれて、そう答えた。 ギャラクシーエネルギーを求めて、はるばる大王星を訪ねて来る者が、何人かいた。 しかし彼らは大王星に着いた途端に力尽きたり、月にいたあの光量子のモンス ターに襲われて、死んだりしていたのだ。 それを何度も見てきた女王。 「あなたも、助かるかどうかは解りませんでしたが……」 その時の女王は、モンスターとの戦いを見ていた。 ベラミスが炎に包まれたのを見て、彼女が宇宙艇ごと爆発する前に、女王は残 る力を振り絞ってギャラクシーエネルギーを放射した。 生きて欲しいと願って。 エネルギーがモンスターに吸い取られる可能性もあったが、迷う前に祈り、願っていた。 瞬間に強いエネルギーを放射するのは、年老いた女王には堪える。 女王はその場に崩れ落ちた。 だが、すぐ傍に、ベラミスも倒れていたのだ。 「あなたが私のもとに来たのは、奇跡だと思いました」 そう思ったのも束の間、瀕死の状態のベラミスを見て、まだ予断を許さない状 況だと悟った。 すぐさま治療が始められたが、ベラミスはサイボーグ。 治療の行き届かない部分があった。 それでも打てる手はすべて打ち、あとは、ベラミスの生命力に懸けることにした。 何日も意識不明の状態が続いたが。 「あなたの願いが、生き延びる事に繋がったのでしょう」 生きたいという強い願い。 それがベラミスの命を繋ぎ止めた。 だとしたら、クーゴのおかげだ。 『一緒に大王星に行こう』 あの言葉が、生きたいと思うきっかけとなった。 ベラミスは知らず知らず微笑みを浮かべた。 自分が夢見た新しい世界は、オーロラが作り。 愛しているクーゴは、そのオーロラを愛している。 叶わぬ愛でも、最後に捧げられるなら。 そして、星をなくした人達のためになるなら。 様々な思いが積み重なって、死を選んでしまった。 死へと進む時も、クーゴのためで。 生きたいと思った時も、クーゴの言葉で。 どうしようもなくクーゴに惹かれている自分が、なんだか可笑しい。 そのベラミスの姿を、素直に喜んでいるのだと感じた女王が言った。 「そろそろ、仲間とも話したいでしょう。連絡を取りますか?」 「……仲間?」 「大王星の新しい女王、オーロラ姫と、彼女を守って来た、あなたの仲間です」 ベラミスは女王の言葉に驚いたが。 ここは大王星。 オーロラがいるのは、当たり前なのだ。 「私のことは、彼らには言わないでください」 ベラミスは女王に頼んだ。 女王は、ベラミスが厳しい状態だったため、オーロラ達にはまだ話していなかった。 万一、ベラミスが助からなかったら、仲間の死という悲しみを、二度も与えて しまうと思ったからだ。 女王はオーロラ達とベラミスを仲間だと思っていたが、複雑な事情があると察 し、ベラミスの頼みを聞いて、ベラミスの事は伝えないようにした。 今、オーロラ達は、ゴルゴア星系を旅している。 ギャラクシーエネルギーが復活しても、まだエネルギーが届いていない星々を 回っているのだった。 地球から、キティ博士とドッジ助教授が大王星に来ているが、ベラミスは彼ら に会わないように、宮殿の奥で、体力を回復させる事に努めた。 「これからどうする……」 ベラミスは歩けるようになると、密かに宮殿から出て、外の空気に触れていた。 そして今日は、大地の上に寝転んでいた。 クーゴが誘ってくれた大王星に、今、自分は生きて、その大地を感じている。 望みが二つ、叶ったわけだ。 他の望みは? もう一人の自分が問いかける。 「新たな故郷を見つけたい」 故郷であるガリウス星を失ってから、ずっと夢見ていることを答えた。 まだ望みがあるだろう? 「……」 死を乗り越えても、まだ素直になれないのか? 「……クーゴに、会いたい……」 それなら、今すぐ連絡を取れば良い。 「素直に突き進むのも、良いかもしれないが…」 ベラミスは起き上がった。 「急がない事に決めたんだ」 答えを。 死の淵をさ迷う中で泣いて、生きている喜びを感じて。 自分の心を素直に認めると。 クーゴへの愛が、激流のような思いから、広い湖のようなそれへと変わった。 「本当にお世話になりました。感謝しています」 ベラミスは元女王の手を握り締めた。 「生きてみせることが、あなたへの恩返しだと思っています」 「それで良いのです。死ぬことより、生きることの方が難しく、辛いのです」 どれほどの長い時間、使命を背負って生きてきたのか。 その女王の言葉を、ベラミスは噛み締めた。 オーロラ達は、ゴルゴア星系を苦しめていた魔王のいる星に近付いたと言う。 彼らの事だ。きっと魔王を倒して、平和を取り戻すに違いない。 それを信じて、ベラミスは一足先に、大王星から旅立つ事にした。 愛機は爆発してしまったが、大王星を訪ねて来た人達が残した宇宙艇を整備し て、新たに自分の愛機とした。 その人達の分まで。 生きる。 けれど、それは重くのしかかるものではなく、自然に自分の中に、在る。 「では……」 ベラミスは女王に一礼して、宇宙艇に乗り込んだ。 大王星から、一機の宇宙艇が飛び立った。 「さて、この広い銀河系、どこへ向かおうか…」 ベラミスは希望に満ちた顔をしていた。 「あいつにとっては、銀河系も狭いのだろうが」 くすっと笑う。 笑えるようになった自分が、少し、誇らしい。 「でも、やはり広い。もし、この広い銀河系の中で、再び、あいつと会う時が 来るなら…」 それこそが、奇跡。 そしてその時から、二人の新しい時間が始まる。 どうするかは、その時に考えても、遅くはない。 ベラミスはちらっと大王星を振り返ってから、エンジンを全開にした。 もう一度、奇跡が起こると信じて―――



             ●2002・9・24更新





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