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町外れの静かな一角にその店はあった。
“Planet Blue”
小さいが、瀟洒で優しい感じのするレストランだ。
わずか5席程度のテーブルセットの
片隅に、クーゴは腰を下ろした。客は今、居ない。
表のドアには、午後の休憩タイムを示す
“Closed”のプレートが掛けられている。
「まだ信じられねえ。あんたがあの小さかったマリアだなんて」
クーゴの声は、昔の仲間に再会した時のように、心なしかはずんでいた。
カウンターごしのキッチンに入り、
夕方お店に出す木の実のパイの下ごしらえにかかりながら、マリアが笑った。
「時の経つのはあっという間で。軌道をセットしてもらいこの星に辿り着いた時、
ここにはモンスターこそ居なかったけれど、荒地で、
いくら種を蒔いても草木は育たなかった・・・。
お姉さん達と一緒に、苦労しながら何とか生きていたけれど、それがある日突然、
明るい陽射しと溢れる緑におおわれて。
・・・そこで、オーロラ姫が大王星に無事到着されたことを知りました」
嬉しそうに微笑みながら、瞳の奥が揺れている。
クーゴも穏やかにうなずいた。
「マリア。どんな訳があったにせよ、あんなに幼かったあんたを
ひどい目に遭わせたのは俺だ。・・・すまなかった」
何て綺麗で真っ直ぐな目をする人だろう。嘘のない目。
オーロラ姫を守りたい一心で必死だったのも本当に違いない。
子供心に怖い出来事だったけれど、こうしていると、
そんな過去さえ忘れそうになる。
こんな風に思えるのも、すべてギャラクシーエネルギーのおかげ?
バツが悪そうにしているクーゴに、マリアは無邪気に笑いかける。
「もう、それ以上謝ったりしないで、クーゴさん。
全ての事情はもう晴れたのだし、もともと何かがあったんだろうって
子供ながらに感じてたわ。オーロラ姫を守るために居る方が、
意味も無くひどいことをする筈がないでしょうし・・・それよりも」
作業の手を一旦止めて、少し遠い目をする。
「クーゴさんとオーロラ姫がそのあとわかり合えたことのほうが嬉しい」
マリアがこんな風にして打ち解けてくれたことだけでも充分喜びだったのに、
そのうえ予想もしなかった言葉をかけられてクーゴは一瞬戸惑い、
手元のティーカップにカチャリと指先が当たった。
「とてもいい店だな、マリア。ひとりでやってるのかい?」
気を取り直してクーゴが質問する。
「はじめはお姉さん達と一緒に、何年もかけてこの店を造ったの。
楽しかったわ、何もかも手作りで。そのうちお姉さん達も家庭を
持つようになり、一年前から私ひとりで何とかやっています。
たまに手伝ってはもらうけれど」
白い漆喰の壁と、焦げ茶色の梁。床はベージュのテラコッタタイルが温かい。
窓辺には、野の花がさりげなく飾られている。
大袈裟ではなく、自然で心地良い、忘れられていた遠い時間を
回想させるような、なつかしい香りのする店だ。
まるで、店主であるマリアの生き方そのもののような。
「いい匂いだ」
マリアのキッチンから、香ばしいかおりが漂う。
「さっきとって来た木の実でパイを焼いてるの。その木の実・・・
あの時、クーゴさんと会った星で成っていたあの木の実なんです。
種を取っておいて、ここで育てたの」
マリアがいたずらっぽく笑う。
「・・・参ったな、尊敬するよ、マリア」
クーゴも思わず苦笑し、“Planet Blue”の店内に、
二人のあたたかな笑い声が響き渡った。
窓辺には黄昏が迫り、薄紅色に染まった空が、明日の晴天を約束してくれている。
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