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その星はゼルダ星といった。
いつものように銀河系をパトロール飛行中のクーゴは、
ふとその瑠璃色をした小惑星に惹かれるものを感じ、
降り立つことにした。
― じっとしてるのは性に合わねえからな ―
そう言い訳をして、まるで再び旅から旅を繰り返すような
そんな暮らしも、10年目を迎えた。
もう昔のクーゴではない。
オーロラと出会う前の、自暴自棄なクーゴでは。
命の重さを学び、愛を知った彼は、
相変わらず気ままではあるものの、あちこちへ
飛んで行き、人の力になる勤めを続けている。
静かに降下して大地に着陸するスター・クロー。
まわりは青々とした樹木が生い茂り、瑞々しい風が吹き抜ける。
すぐそばを水路も走っている。
まったく平和そのもの。
降りる前から困っている人達を探す必要もないだろうとわかるほど。
「たまにはひと休みするか」
綺麗な空気を思いきり吸い込んで、大きく伸びをする。
忙しくしていれば忘れられる。
会いたくても二度と会えない人への募る想い、切なさや想い出。
あれから10年も経ったなんて。不思議に信じられない。
その時だった。背後の森から誰かが歩いて来る気配を感じた。
振り返ったクーゴの視界に、やがてその人影が確かな姿を現した。
クーゴが小さくあっと驚きの声をあげる。
目の前に立っているのは、金色の長い巻き毛、青い優しい瞳の娘だった。
華奢な両手に抱えたカゴの中に、
森の中で摘んで来たらしい珍しい木の実が入っている。
年の頃は18、9。白い薄手のドレスの裾が、はらりと風に揺れた。
「姫・・・」
一瞬、我が目を疑った。そんな筈がない。
そして、次の瞬間、彼女が口を開く。
「・・・あ・・・旅の・・・方ですか」
この星の者らしくない風貌は、ひとめ見て知れる。
彼女の声を聞き、我に返ったクーゴが返事をした。
「まあ、そんなところかな。悪い、びっくりさせちまったかな」
「いえ・・・そんなことは」
彼女は屈託なく微笑んで言った。
けれど次の瞬間、何かを急に思い出したように一瞬
だが怯えるような目の色をし、少し躊躇しながらも気丈に言葉を繋げた。
「あなたと昔お会いしていますね、たしか」
唐突な質問に、今度はクーゴが戸惑う番だ。
「えっ?あんたと?この俺が?」
「昔、まだ幼かった頃、乗っていた宇宙船を襲われて・・・その時」
言いにくいことを口にする時の、ためらいを含んだ口調で彼女は続けた。
「私、マリアといいます」
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