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「ええ!?」
開口一番、何と言っていいやら困惑しながらも喜びを隠せない、
そんなクーゴがいた。
キティ博士から、女王の指令を説明され、1年に一度、大王星へ
行くという任務を与えられたことに、クーゴは呆然となる。
「ジョーゴやハッカとも一緒にですよ、クーゴ。これは他の者では
出来ない、貴重な任務です。お願いしますね」
キティ博士のイヤリングが煌いて揺れながら、その顔は限りなく
優しくたおやかだった。
クーゴは最初見せた喜びに溢れた瞳を抑えて、神妙な面持ちに
なった。
「キティ博士…。それが俺に与えられた大事な任務なら、きちんと
守ってみせます」
クーゴのその言い方は、自分を戒めているように聞こえて、キティ
博士は少しだけ切ない思いがした。
自分がジョーゴやハッカとは違う次元でオーロラ姫と一度だけ会って
しまったこと。オーロラ姫自身が、クーゴを求めていたこと。
けれどそれを今後も続けてしまってはいけないのだと、クーゴ自身が
誰よりも一番分かっているようで、キティ博士は胸を痛めた。
「クーゴ。頼みます。あなたは私が思っているよりも遥かに大人の
男性ですよ。でも、あなた自身もオーロラも、がんじがらめになって
悲しい思いを残してはいけません。それだけは言っておきます」
キティ博士の精一杯の気持ちだった。
クーゴは清々しい笑顔を見せて、キティ博士に答えた。
「大丈夫ですよ、キティ博士」
大王星へと向かう日が近付いた。
ドッジ助教授が研究室にクーゴを呼んで、あれこれと説明をする。
「いいか、クーゴ。このデータとそのデータとあのデータ、それで全部だ。
銀河系の一部始終を知る大事な資料だ。ぬかるんじゃないぞ」
クーゴは笑いながら言う。
「もう、心配性なんだなあ、ドジ助教授はぁ。大丈夫ですよ、こういう
のは全部ジョーゴに任せて…」
「ドジじゃない!!ドッジじゃ、バカタレ!!そのジョーゴが来るまで
お前がちゃんと管理するんじゃ!分かったかこの間抜けめっ」
ドッジ助教授の雷に思わず両耳を押さえて、クーゴはペロッと舌を
出しながらまた笑った。
翌日、キティ科学研究所に、スターカッパーとスターブードが降り立った。
ジョーゴとハッカがやって来た。
大事な1年に一度のお役目だ。
キティ博士の指示に従い、3人揃ってここから出発する。
「おお〜い!クーゴ!」
ハッカが喜び勇んで駆けて来る。
その後を、微笑みながらジョーゴもこちらへ向かう。
「ハッカ!ジョーゴ!」
クーゴの瞳はあの頃のように明るく輝く。
3人は寄り添って昔のように輪になった。
銀河系は美しい。静かで限りなく穏やかで、平和になったのだという
確かな実感があり、至上の喜びに平伏したいほどである。
クーゴ、ハッカ、ジョーゴの3人は、その銀河の流れの中を、ゆっくりと
中心である愛の星、大王星へと進んで行く。
3人と、そして大事なオーロラ姫を乗せて、クィーンコスモス号で
大王星へ向かった昔。行く手には困難が手を広げて待っていて、
何度も何度も挫けそうになりながら、お互いを信じ、そして助け合って
旅したのだった。
今こうして、何者にも阻まれることなく、一直線にその大王星へと
3人で向かっている。不思議な気がした。
「昨日のことのように思い出すよな」
クーゴが感慨深げに、スタークローの中で二人に呟いた。
「クーゴったらちょっと見ない間にかっこいいこと言うようになったじゃん」
ハッカがすかさずからかう。照れ臭いのだろう。
「おいハッカ。お前が大活躍した水の星が見えて来たぞ。覚えてるか?」
ジョーゴが前方の星を指差した。
オーロラ姫が水着に着替えて、海で遊んだあの星。
今は美しい星に甦り、あのモンスターも美しい蝶に帰っている事だろう。
「忘れてたまるかよ〜。姫とさ〜、二人きりで泳いじゃったもんね。
あー楽しかったなあ。姫〜、このドン・ハッカ、あのひとときを今もこの
胸に生きておりますう」
ハッカときたら、手を頬に当ててうっとりしている。
クーゴもジョーゴも可笑しそうに笑った。
3人は途中で何度か休憩を取りながら、その度に懐かしい話で盛り上がり、
そして大王星へと辿り着いた。
美しい眩い光を放ち、愛の星、大王星は、クーゴ達3人の使者を優しく
迎えてくれた。
3人が大王星に降り立つと、宮殿の中にある、誰かが到着したことを
知らせるランプが点灯した。その青く月の光にも似た灯りに気付き、
オーロラ姫は逸る気持を必死に抑えて、エントランスへと向かった。
オーロラ姫が立つと、宮殿の入り口は音もなく開いた。
仄白くほんのりとキャンドルのように揺れる大王星の白い花々。
その花のそばに、見覚えのある三機の宇宙艇と3人の人影があった。
オーロラ姫は歩みを進めようとして、時間が止まったようになり、
その場に静かに立ち尽くす。言葉にならない思いが溢れそうだった。
風がすうっと間を流れ、青いドレスの裾が少しだけ揺れた。
彼らと自分の間に光の帯が橋となって現れ、オーロラ姫はその上に
足を踏み出した。
思い出す。
3人に背を向けて、この光の橋を渡って宮殿に入った日を。
もう一度旅立つために、3人をまた迎えることが叶ったあの日を。
「皆さん…ありがとう、またお会い出来て私は幸せです…」
オーロラ姫はすぐそばまで来てそう言い、青い瞳を潤ませた。
あれから5年の月日が流れていたが、オーロラ姫の美しさは以前より
ずっとずっと増して、その優しい風情も貫禄さえ漂わせていた。
クーゴもハッカもジョーゴも、感無量でその場に立ち尽くした。
「ひ、ひめぇ…」
ハッカが上擦った歓喜の声を上げる。
クーゴは黙って静かにオーロラ姫を優しく見つめた。
ジョーゴは紳士らしく丁重に、けれど喜びを表しながら、オーロラ姫に
言った。
「オーロラ姫。銀河系の使者として、只今我ら3人、到着しました」
オーロラ姫は金色の長い髪をそよがせ、微笑みを浮かべて静かに
頷いた。
宮殿に入れるのは、女王とオーロラ姫に限られているため、
来賓であるクーゴ達は、少し離れた場所に設けられた建物に入り、
そこで銀河系の状況報告を済ませた。
その後で食事が振舞われ、大きなテーブルに数々の料理のもてなし
を受けた。
オーロラ姫はマントを外した薄絹の水色のドレスだけになり、軽快に
席に着き、4人揃っての久しぶりの円居の風景となった。
ハッカはもちろんのこと、クーゴもジョーゴも、初めて口にするこの
大王星での料理があまりにも美味で、舌鼓を打つ。
「デザートはいかが?皆さん」
オーロラ姫がとても優しい声で3人に訊ねた。
「デザート!?わーい!食べます食べます〜!」
ハッカはもうご機嫌に上が付く勢い。
ジョーゴはそんなハッカの隣りの席で、呆れて思わず肘で突付く。
「おいハッカ。お前何でそんなに食うんだ」
既に山盛り5人前分は平らげているのに。
「ハッカが食欲無くなったらハッカじゃねえよ、変わんねえなあ」
クーゴも楽しそうだ。
オーロラ姫も嬉しそうにくすくす笑いながら、良く冷えたグラスを四つ、
トレイに載せ大事そうに抱えて持って来る。
淡い半透明の黄色とワインレッド2色が折り重なるゼリー。
「どうぞ。これは私のお手製なので…お口に合うかどうか分からない
けれど」
3人は一斉に驚いてグラスとオーロラ姫を見つめる。
「凄いですね…姫の手作りを頂けるなんて。ありがたい」
ジョーゴは感動しているらしいが、相変わらず大人の対応だ。
「わーい!姫の手作りだ〜手作りだ〜」
ハッカのはしゃぎ方は子供のように素直である。
そしてクーゴは、照れた瞳でオーロラ姫を見られずにグラスだけを
見つめる。
林檎のような桃のような果実のゼリーに、ワインとブランデーを
混ぜた味わい。上品な甘さと恍惚となるような舌触り。
縦長の細いグラスの中のゼリーは、瞬く間に皆の腹に収まった。
「俺、今すごーい幸せぇ〜…」
ハッカはまたまたうっとりとしている。
「ごちそうさま。凄く美味かったよ、姫」
クーゴが微笑みながら、素直な感想を端的に言った。
ジョーゴは感心してオーロラ姫につい質問をする。
「姫はご自分でお料理までこなされるんですね、こちらでは。
改めて感動しましたよ。しかもかなり腕が良くてびっくりです」
オーロラ姫は皆の反応に頬を染めて答えた。
「皆さんありがとう。普段は何もしないでも用意してもらえるのですが、
自分でも色々やってみたくて。デザートくらいなら何とかと思って…。
良かったわ、喜んでもらえて」
クーゴの瞳が、オーロラ姫をずっと追っていた。
そして、時々、オーロラ姫も、他の二人には悟られないように心を
配りながら、クーゴを見つめた。
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●2003・07・05更新
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