1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



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スタジン小説 その38





「Tender」   作・にいな

                          <2/3> 「すいません、キティ博士。滞在が延び延びになって」 頬を掻いて、申し訳なさそうに言っているのは、クーゴだ。 「それは構いませんよ」 キティ博士は、にっこり笑って言う。 ギララ星系に程近い、イリス星と言う惑星に、今クーゴはいる。 クーゴが、そしてハッカやジョーゴが、故郷の星以外に、復興の手伝いをする 星は広い範囲に渡っていた。 イリス星はギララ星系に近いため、ギューマ軍団の支配を受けていた。 男達は兵士に取られ、残った者達は、食料を納めるために働かされていた。 軍団が壊滅した後、兵士だった男達も帰って来て、ギャラクシーエネルギーが 復活した後は、みんなで星の復興を進めている。 「クーゴ。また余計なお節介を焼いているんじゃなかろうな。星の復興の手伝 いはするが、あくまでもその星の人々自身の手で、自立出来るまでの手伝いじゃ」 ドッジ助教授が注意する。 「解ってますよ。でも、みんな頑張ってるんで、去りがたくて。あ、次の星の 予定が入ったんですかね、キティ博士」 「いえ、特に急ぐ仕事はありません」 「じゃあ、俺、もう少しここにいます。まだ道を切り開いたり、水路を作ったり、 橋とかも…」 「クーゴ。働きづめですが、大丈夫ですか?」 ここ三ヶ月ほど、クーゴは休みなしで、あちこちの星を回っていた。 「平気ですよー。俺、動いてる方がいいんですよ」 クーゴは生き生きしているように見えた。 「では、クーゴ。頼みましたよ」 「はい!」 クーゴが元気良く返事をして、通信は切れた。 「やれやれ。タフじゃのう。ま、あいつらしいと言えば、そうなのじゃが」 ドッジ助教授は、いつもの事だと思っている。 「いささか、元気が良過ぎるようですが…」 キティ博士は少し考えて、 「水路を作るとか言ってましたね、クーゴは」 コンピューターで何か調べ出す。結果はすぐに出た。 「水の惑星警備隊、現在の時刻は午後を過ぎた辺り。では連絡はすぐに取れる はずですね…」 キティ博士は、通信システムの水の惑星とのホットラインである、青いボタン を押した。 クーゴはイリス星の川のほとりに、腕組みして立っていた。 「う〜ん……ここから水を引いて水路を作るか……大仕事だよな」 道を切り開くのも、橋を作るのも大仕事だが。 でも、それくらいやり甲斐のある方がいい。 仕事を終えたら、何も考えられないくらいヘトヘトに疲れて眠りたい。 この何日間は、そういう気分なのだ。 頑張っているのに、やるせない気持ちになるのは、なぜだろう。 「あ〜っ、もう!」 クーゴは頭をガシガシと掻く。 「とにかくやるしかねえな。え〜っと、アストロザンダーで水を引く道を…」 段取りを考えていると、この川が流れ込んでいる海の方から、ドーンと爆発音 が響いた。 「なんだ!?」 クーゴはヘルメットを被ってスタークローに乗り、急行する。 海の方には港があり、収穫した果物などを一時的に保管している古ぼけた倉庫がある。 別の土地から運んで来た食料や、建物を建てる時に必要な材料なども置いてあった。 その倉庫の一つが炎上しており、並んでいる他の倉庫に、次から次へと火の粉が飛ぶ。 燃え移るのは時間の問題だ。 「何があったんだ!?」 クーゴがイリス星人に問い質すと、倉庫の一つには、ギューマ軍団が置いていた 武器があったと言う。 それが何らかの切っ掛けで、爆発してしまったのだろう。 「みんな早く避難するんだ!!」 既に二つ目の倉庫が燃え始めていた。 「せっかくみんなで収穫した果物が…!なんてこった…!」 しかし諦めるしかないようだ。とにかく火を消す事が先決だが、消火設備は 不充分である。 目の前は海で、水はたくさんあるっていうのに。 いや、武器か弾薬が爆発したなら化学消化剤が必要か。 空中でスタークローに乗ったまま思案している間に、炎が吹き上がり、 同時に五つの倉庫が燃え出した。 「こうなったら、燃えている倉庫を崩すしかないか…!」 これ以上燃え移って被害が広がるよりはと、クーゴはアストロボーを構えた。 その時。 「待て、クーゴ!」 ヘルメットの通信機から聞こえて来た声。 「えっ、その声はジョーゴ!?」 クーゴが見回すと、頭上からスターカッパーが、ぐんぐん近付いて来るのが見えた。 ジョーゴがスペースランサーを構えている。 「アイススペースバロー!!」 続けざまに撃ったそれは、あっという間に倉庫を凍らせ、火の勢いを止めた。 避難し、遠巻きに見ていたイリス星人達に、どよめきが起こった。 次いで歓声が起こり、倉庫へ向かって来ようとしている。 「まだ危険だ!近付くんじゃない!」 ジョーゴが指示を出しながら、地上へ降りる。 クーゴもスタークローを着陸させた。 「……びっくりした……けど、よかった……」 ジョーゴの出現に驚き、消火出来た事に安堵して、クーゴはスタークローから降りた。 そのまま突っ立っていると、ジョーゴもスターカッパーを降りて、ヘルメットを 外して手に持ち、クーゴの方へ微笑みながらやって来る。 クーゴもヘルメットを取った。 「久しぶりだな、クーゴ」 「ああ。だけど、どうしてお前がここに?」 訊ねながらクーゴの脳裏には、キティ博士が浮かんだ。 「キティ博士から頼まれた」 「やっぱり」 「いきなりこんな事になってるとはな。驚いたぞ」 「俺もお前が来た事に驚いたぜ。でも、助かった。ありがとう」 と言った途端に、クーゴは熱いものが込み上げて来て、戸惑った。 やばい。 クーゴは片手で顔を覆った。 「クーゴ、どうした?大丈夫か?」 「……大丈夫だ。本当に助かったよ……」 少しだけ、クーゴの声が震えている。 「しっかりしろよ。まだ後処理があるだろう。積もる話はそれからだ」 ジョーゴはポンとクーゴの背中を叩く。 「…わりぃ。そうだな」 ジョーゴがいるだけで、張り詰めていた気持ちが緩み、救われる。 このところのやるせなさの原因を悟ったが、そういう話は後だ。 クーゴはジョーゴと肩を並べて、倉庫の方へ向かった。 「テレポーバロー!」 ジョーゴは一発ずつ、凍っている倉庫に撃っていった。 「これで氷が少しずつ溶けて、完全に消化してくれる」 「化学消化剤じゃなくても、大丈夫か?」 「アイススペースバローで充分と計算済みだ」 電卓を出して得意そうに微笑む。 「あ、そうか」 ピッピッとジョーゴは電卓を打ち、 「古くなっていた電源がショートして自然発火した時に、弾薬に火が付いたようだ。 現場を詳しく見てみなければならないが、人為的な火災ではないな」 そう結論した。 「でも、ここにギューマ軍団の武器があったことは、俺は知らなかった。 よく調べてから、倉庫を使わせるべきだったな…」 「あまり自分を責めるなよ」 ポンポンとクーゴの肩を叩いて、ジョーゴは最初に炎上した倉庫に向かって、 また計算を始める。 その姿を眺めながら、クーゴは呟いた。 「俺一人じゃ、こうも早く解決出来なかったな……」 数ヶ月、一人でがむしゃらに頑張っていたけれど、そろそろ限界だったんだ。 ジョーゴの力や頭脳は頼りになるが、それだけじゃない。 精神的に、頼れる存在なんだ、ジョーゴは。 それを改めて思い知ったクーゴだった。 ジョーゴの協力があって、水路を作る事も、クーゴが思っていたより早く完成した。 イリス星人達は、橋の建設に取り掛かり、クーゴはそれを見届けたかったが。 「もう彼らに任せても大丈夫なんじゃないか。気になるなら、もう一度訪ねて 来れば良いじゃないか。一旦帰ろうぜ」 夜、クーゴとジョーゴは、星空を見ながら語り合っていた。 川のほとりに、ジョーゴは腰を降ろして、クーゴは寝転がって。 「だいたい、俺は休暇中だったんだ」 なんだよ。俺はジョーゴが来てくれて嬉しかったのに、その言い方はないだろ。 「悪かったな。せっかくの休暇だったのに」 クーゴは拗ねた口調で、それでも一応謝っている。 「そう思うなら、俺に付き合って、水の惑星に来い」 「はあ?」 「キティ博士が、“羽根を伸ばしていらっしゃい”と言ってたぜ」 「えっ?」 ジョーゴがキティ博士に連絡を取った時――。 『ジョーゴ、頼みがあるのです。クーゴの手助けに行ってくれませんか?』 『お安い御用ですよ、キティ博士』 ジョーゴは柔らかい微笑みで答えた。 『休暇中なのに、すみませんね』 『いえ。久しぶりの休暇なので、どう過ごしたらいいか、考えていたんですよ』 『ジョーゴ…』 キティ博士は何か感じたようだった。 『あ、あの、博士…』 ジョーゴは心を見透かされたようで、動揺した。 『私はハッカにも連絡するつもりですから、仕事を終えたら、三人で羽根を 伸ばしていらっしゃい。あなたの星でも、ハッカの星でも、もちろん地球ででも』 ――キティ博士はとても優しい顔をしていた。 「……キティ博士にはお見通しか。俺が無理して元気に振舞ってたこと……」 クーゴは溜息を吐く。 「お前だけじゃないぜ。俺もそうだ。水の惑星の復興も落ち着いて、モンパ達も 成長して、それまで突っ走っていたのが、緩やかな歩みになる。余裕が出来るのは いいんだが、考えないようにしていた事が浮かぶようになっちまってな。 姫やお前やハッカはどうしてるかなあとか」 「……うん……」 「ぽっかり休暇なんかがあると、ますます寂しさが募って気持ちが追い詰めら れる感じでな。そんな時にキティ博士と話すと、察せられるってわけだ」 ジョーゴは苦笑している。 そう、寂しい気持ち。でも口には出せなくて。 だんだんとやるせなくなって来ていた。それでも無理していたけれど。 キティ博士はそんなクーゴとジョーゴに気付き、友と会う事で気分転換させよ うと配慮してくれたのだ。 「あ〜あ、適わねえよなあ、キティ博士には」 クーゴが半身を起こして伸びをする。 「そりゃあ、このマークをくれた御人だからな」 ジョーゴが親指で自分の胸を指す。 胸にある友情の星が、星明りの下で輝いた。 「そうだよな」 クーゴが大きく頷く。 「そういうわけだから、二、三日でも俺の星に寄って行け。俺はすでに休暇を 延長しているし、リリカもお前に会いたがってるぞ」 「リリカちゃんが?へえ…解ったよ。ところで、ハッカはどうしたんだ? 来ねえじゃねーか」 「そうそう、あいつも別の星にいるらしくて、間に合うかどうか解らないと、 一度博士から連絡があった」 「そっか…」 「じゃあ、明日には、この星を発つぞ」 「OK。ジョーゴ、今回は本当に世話になったな。感謝してるぜ」 「こっちこそだ。お前がいるだけで、気持ちが楽になったよ」 ジョーゴも、クーゴを精神的に頼りにしている。 「お互いさまだな、クーゴ」 ジョーゴが得意のウインクをして、二人は笑い合う。 静かな夜。二人の穏やかな時間は過ぎて行った。
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●2003・06・24更新

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