1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



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スタジン小説 その38





「Tender」   作・にいな

<3/3> 暑い夏の陽射しが和らぐ夕暮れ。湖面を渡る風が、涼を運んでくれる。 水の惑星は、夏の様相を呈していた。 クーゴがこの星を訪れて二日目。 今夜はバーベキューを楽しもうと、ジョーゴの自宅近くの湖のほとりで、まだ 明るい内から準備をしていた。 ジョーゴ、クーゴ、リリカと、勤務帰りのモンパとで。 「みんなは、そっちで肉を焼いててくれ。俺は冷たいパスタを作るから」 「了解です」 早速モンパが焼き始める。 「へえ、ジョーゴが作ってくれるのか」 「ジョーゴの料理って、美味しいのよ」 「今から作るのは簡単なパスタだ。料理ってほどのもんじゃないよ」 他愛のない会話の間に、美味しい匂いが立ち込める。 と同時に、上空から聞き慣れたマシンのエンジン音が聞こえて来た。 「…スターブードだ」 クーゴが確認せずにジョーゴに言うと、 「一応、多めに食材は買ってあったが、実にタイミング良く来るな、あいつ」 ジョーゴは感心したように頷く。 「あのー、キャプテン。今、基地から連絡がありまして…」 緊急事態に備えて通信機を携帯していたモンパが、 「ハッカさんが来るそうです」 肉を焼く手を休めて、おずおずと報告する。 「もう来てるし。どうするの?ジョーゴ」 リリカが面白そうに訊く。 「スターブードは丘の方に着陸してもらわないとな」 と言ってる傍から、 「やっほー、クーゴ!」 やはりキティ博士からの緊急コールに備えて、持って来ていたクーゴのヘルメ ットの通信機からハッカの声が聞こえた。 「ハッカ!今まで全然連絡なしで、突然何だ!」 クーゴが通信機に向かって怒鳴っているが、目は笑っている。 「怒ってんのかよお、クーゴ、手助けに行かなかったから。俺もさあ、大変だ ったんだよ」 大変なのは解る。クーゴだって、ジョーゴが来なかったら、まだイリス星で 手間取っていたのだから。 「解った解った。とにかく丘の方に着陸しろ。それから湖の方へ来いよ。俺達 が見えてるだろ?」 そこでようやくクーゴは上空を見上げた。 ジョーゴやモンパも見上げ、リリカは手を振った。 「見える見える。リリカちゃんが手を振ってるよな。じゃあ、後でな〜」 スターブードが向きを変えた。 「まったく、食い物に引かれて、やって来たようだよなあ」 クーゴはやれやれと言った感じである。 「ああ。あ、俺は食材を持って来るよ。絶対にこれだけじゃ足りないからな」 ジョーゴは言って、エアカーに乗り、自宅へと向かった。 「うわ〜、肉が焦げる!」 ジョーゴを見送っていたモンパが慌てている。 「大丈夫、そこまで焦げてないよ。これは先に食べちゃう?クーゴさん」 「そうだな」 「はい、モンパさんも食べなよ」 リリカが皿とフォークを渡す。 「あ、ありがとう…」 モンパがなぜかはにかんでいる。 「……ジョーゴが楽しそうで、良かった」 リリカがぽつりと呟いた。 「ん?どうした?」 肉を頬張っていたクーゴが訊く。 「ジョーゴね、休暇の前の数日は、無理してたの。私の前ではいつもと変わら ない振りしてたけど、無意識に溜息吐いたり、苛ついてたりしたのは見たから… だから休ませてあげたいと思ってて。それなのに、キティ博士の頼みを 引き受けるなんて言うから、私はキティ博士を恨んじゃったわ」 「う〜ん、それは…」 クーゴが困っている。 「でもね、クーゴさんの手助けに行くって、ハッカさんにも会えるかもしれな いって、ジョーゴが張り切ってるのを見たら、それが一番の休暇なのかなあと 思ったの。やっぱりクーゴさん達といるのが、元気になるのかなって」 「そうですね。僕達も頑張ってキャプテンを支えていますが、クーゴさん達に は適わないかもしれません」 「そんなことないぜ。リリカちゃんはいつも傍にいて支えてくれるし、モンパは しっかりして来て頼りになるって、ジョーゴが言ってたぜ」 イリス星で互いの近況を語り合っている時に、ジョーゴはそう言っていた。 「うん、解ってるけど…クーゴさん、忙しいでしょうけど、時々はこの星に、 ジョーゴの所に遊びに来てね」 「…ああ、そうするよ」 リリカのジョーゴを思いやる優しさに、クーゴは応える。 「あ、キャプテンが戻って来ました。ハッカさんも乗ってるようですね」 ジョーゴが途中で拾ったのだろう、エアカーが止まり、最初に出て来たのは ハッカである。 「クーゴ、元気そうじゃん。今回は手伝いに行けなくてさ、本当に悪かったよ」 「別にいいぜ。ハッカが来なくても、なんとかなったからさ。お前も、相変わ らず元気に太ってるな」 「久しぶりに会ったってのに、憎まれ口叩くか〜?そんなクーゴには差し入れ をやらないぜ〜」 「差し入れ?」 「俺の星で獲れたフルーツ各種。ジョーゴォ」 「はいはい」 降りて来たジョーゴがそのフルーツを数個持っている。 「そして極め付けがこれ!」 エアカーの後ろから、ハッカが大きなスイカを一個出した。 「大きくて旨そうだろう?うははは…」 「ハッカ。聞きたいんだがな」 ジョーゴがテーブルにフルーツを置いて、電卓を出して計算を始める。 「スイカは一つしか持って来なかったのか?差し入れなら、もうちょっとなあ」 勘と計算で訊いてみたのだが、 「う……」 ハッカが言葉に詰まった。それを見たクーゴは、 「途中で食ったんじゃねえか、ハッカ?」 正直な奴、と思いつつ面白がって責める。 「あ、いや、三個持って来てたんだけどさ、つい、そのう…」 「やっぱり。食ってしまったわけね。こいつ!」 ジョーゴがパコンとハッカの頭をはたく。 「差し入れを持って来る前に食う奴があるか!」 クーゴが肘でハッカの胸を小突く。 「悪かったってばよ〜腹減ってたんだよ〜」 「まあまあ、いいじゃない。差し入れありがとう、ハッカさん。肉食べる?」 リリカが肉を盛った皿を差し出す。 「リリカちゃんは優しいなあ」 ぱくっと一口でハッカは食べた。 「いや〜旨い!良い匂いがしてるなあ。あ、ジョーゴ、スイカは冷やした方が 断然いいぞ」 ジョーゴはクーゴと顔を見合わせて笑う。 「湖で冷やすか。水が冷たいポイントがあるから。おい、ハッカ、スイカを 持てよ」 「え〜、お前のアイススペースバローで…」 「そういう事に使えるか。食った罰だ、運べよ」 「ちぇっ」 不服そうだが、それでも運ぶ。ジョーゴと話しながら。 「……なんだか、勤務中のキャプテンとギャップがありますね。ハッカさんと ふざけ合う姿を見たら、みんな驚きますよ」 モンパが面食らっている。 「鬼キャプテンをやってるのか、ジョーゴの奴?」 「はい、厳しいですよ。新人警備隊員の間では、クールなキャプテンと評判です」 「クールねえ。そりゃ、あいつは冷静で、いつも落ち着いてるけどな」 冷静に一歩引いて、みんなを見守っている。 その瞳は限りなく優しい。 ジョーゴの優しさに、姫も俺もハッカも、何度救われたことか。 もし一言でジョーゴを表すなら、Coolより、Tenderだな。 クーゴは密かにそう思っている。 「でも、警備隊の中にいても、仕事を離れれば、気さくになるでしょ、 ジョーゴは。ねえ、モンパさん」 「そうですが、こんなにリラックスしてるのは、みんな知らないでしょう」 「お前がフォローしてくれるから、ジョーゴも安心してクールにやってんじゃ ないか」 「そうかも〜。昔は、フォロー役が私の兄だったのよね。今はモンパさんだわ。 頑張ってね」 リリカがにっこり微笑む。 「あ、は、はい」 モンパは赤くなって答えた。 「…冷やすのはいいが、食うのを忘れないようにしなきゃな。いや、お前が 忘れるわけはないか」 「そりゃそうだぁ。うはははは」 ハッカとジョーゴが戻って来た。 「ああ、クーゴ。肉や野菜はどっさり持って来たから、どんどん焼いてくれ」 「はいよ」 「さて、俺はパスタ作りの続きをやるか」 「ふ〜ん、ジョーゴが作るのか。クリームソース?具はシーフード?」 「ハッカ!つまみ食いするな!」 「あ、おい、ハッカ。肉を食え、肉を。ほれ」 クーゴが差し出す。 「サ〜ンキュ〜」 それはそれは嬉しそうに、ハッカが食べる。 「やれやれ…」 ジョーゴは笑って、パスタ作りを再開した。 美味しい料理と楽しい話題で夜は更け。 そろそろ宴も終了となり、片付け始める。 「なあ、ジョーゴ。大王星はどっちだ?」 テーブルをたたんでエアカーに積んでいるジョーゴの左隣に、ハッカがやって 来て訊く。 「あの辺だ」 ジョーゴが夜空を指差す。右隣にクーゴもやって来て、ジョーゴが指差す方を 見つめる。 「姫、元気かなあ…」 ハッカが切なそうに呟く。 「元気に決まってるだろ」 クーゴが明るく言う。 「俺達だって元気なんだから」 ジョーゴがハッカの背中をポンポンと叩く。 「そうだよな」 ハッカは笑ったが、瞳が潤んでいる。 一人でいる時も、三人集まった時でも、必ず思い出すのは、愛する人の事。 オーロラ姫に会いたい。 三人の思いは同じ。 「また、復興が進む星の報告をしに、大王星には行けるんだ」 ジョーゴがみんなを、自分をも慰めるように、静かに言うと、クーゴとハッカ が頷いた。 (オーロラ姫。あなたのもとに集まった俺達は、離れていても、友情の絆で 結ばれています。あなたの愛を感じながら、生きている。俺達は、あなたを 愛して、これからも、ずっと……) ジョーゴはオーロラ姫に思いを馳せる。 クーゴもハッカも、それぞれの思いを胸に。 しばし夜空を眺める三人。 「もお、いい男が三人揃って呆けた顔しちゃってさ。可愛いもんよねー」 沈黙を破ったのは、リリカの声。 「リ、リリカちゃん、いきなり何だよ」 クーゴが焦っている。 「誰の事を考えているか、すぐに解っちゃう。みんな素直だね、好きな人の事 になると」 「こら、リリカ、からかうな」 ジョーゴが苦笑して、リリカの頭を撫でる。 リリカは舌を出して悪戯っぽく笑った。 「さあさあ、家に帰るわよ」 子供を連れて帰る母親の口調である。 「よし、早いとこ荷物を乗せなきゃな」 クーゴが荷物をエアカーに積む。 「俺、ジョーゴん家に泊まるのは、初めてだな」 ハッカが楽しそうである。 「うるさいいびきをかきやがったら、外に放り出すぞ」 クーゴが睨む。 「なんだよ、クーゴと一緒の部屋なのかよ。別々がいいなあ」 「ジョーゴにわがまま言うんじゃねえの。客室が一つしかないんだよ」 クーゴとハッカのやり取りを聞いて、ジョーゴがくすくす笑う。 こんなに何度も笑うのは久しぶりだな。 かけがえのない友であり、同じ女性を愛する男同士であり、魂の兄弟でもある クーゴとハッカ。 ジョーゴは改めて、二人の存在に感謝する。 そしてもう一度、夜空を見上げた。 (父さん、母さん、フローリア。俺は一人じゃない、安心してくれ。クーゴや ハッカ、リリカやモンパ、それにキティ博士やドッジ助教授と、心の家族が いる。愛するオーロラ姫も心にいて、俺は幸せだから) 今は遠い遠い場所にいる家族に思いを伝える。 「ジョーゴ、呆れちゃってんの?クーゴと一緒でも我慢するからさあ、泊めて くれるよな?」 物思いに耽っていたジョーゴに、ハッカが不安そうに話しかける。 「部屋ねえ。リビングで飲み明かそうと思ってたんだが」 「お、それはいいな。よーし、そうと決まれば早く帰ろうぜ」 「仕切るな、クーゴ。最初に飲み潰れるくせに」 「ハッカ、それはお前だろ」 「ああ、また始まる。きりがないな。おい、エアカーに乗ってくれ。本当に 帰るぞ」 宴の続きが、家で開かれる模様であった。 翌日にクーゴ、翌々日にハッカが帰って、ジョーゴには、いつも通りの日常が 戻って来ようとしていた。 「長い休暇も終わって、明日からはまた忙しい日々だな」 ハッカを見送って、ジョーゴが大きく伸びをする。 気分は爽快だ。 また明日から頑張れる。 そう思っていると、風が吹いて来て、ジョーゴの髪をなびかせる。 水の惑星には、今日も優しい風が渡っていた。 <終>
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●2003・06・24更新

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