1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



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スタジン小説 その40





「PARTY」   作・にいな

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クィーンコスモス号は大王星目指して、ギララ星系を進んでいた。 コクピットのシートには、クーゴだけが座っていた。 今は夜の時間帯で、他のみんなは眠っている。 「もう少しで寝られるな。この2、3日は襲撃もない。明日もこの調子だと いいけどなあ」 クーゴが伸びをする。 この後、クーゴも寝る予定だ。とその時、通信が入った。 画面に映った人物を見て、クーゴは言った。 「あれ、こんな時間にどうしたんですか。今、みんな寝てる時間なんですよ、 ドジ助教授」 「ドジではない!」 と声を上げてから慌てて、 「ドッジじゃ」 声をひそめて言う。 「へへへ。さっきくらいの声だったら、みんなも起きませんよ」 可笑しそうに笑って、そして気付く。 「あ、それって、ひな人形じゃないですか」 モニター画面の端にクーゴ側を向いて、ちょこんと座っている内裏雛を指差す。 「そうじゃ。今日は2月27日で、ひな祭りが近いので、飾ってあるのじゃ。 研究所は日本にあって、日本人の所員が多い。それに、世界各地出身の者達 もおるから、キリスト教やイスラム教の行事を開く事もあるぞ」 「へーえ、知らなかった。楽しそうだなあ。宇宙を旅してると、時間や季節の 感覚がなくなるもんなあ、俺達は。クリスマスの時は、姫が思い出してたけど」 「ああ、そのオーロラ姫のことでな、話があるんで、ハッカとジョーゴも 呼んでくれ。ただし、姫には気付かれないようにな」 「はい…?」 オーロラ姫に気付かれないようにって、キティ博士の定時連絡の時ではなく、 コクピットの方にこんな時間に通信を送って来たのか? クーゴは不思議そうにしながらも、ハッカとジョーゴを呼びに行った。 「わ〜、その可愛い人形はなんだ?」 ハッカもひな人形に気付いて訊ねる。 「ひな人形って言って、地球の日本の行事の時に飾るものなんだ。ひな祭りっ て女の子の祭りが、3月3日にあるんだ」 クーゴが説明する。 「ふ〜ん」 ジョーゴは頷きながら、電卓を打っている。 「何を計算してるんだ?」 クーゴが訊く。 「計算じゃなくて、ひな祭りって情報の入力」 「あ、そう。何でも入力するんだな」 「ふわ〜あ。それで、何ですか〜話って」 ハッカが眠そうである。 「実はな、3月2日がオーロラ姫の誕生日なんじゃ」 一瞬の間があって。 「えーっ!?」 「それは本当ですか!?」 「ひな祭りの前日!?」 三人が驚いて、それぞれ大声を出す。 「しーっ!」 ドッジ助教授が口に人差し指を当てている。三人は顔を見合わせて慌てて口を 押さえた。 「助教授、そういうことは早く言ってくださいよ。今日は2月27日なんでしょ。 もう3日後じゃないですか」 クーゴが声をひそめながらも強く言う。 「いや〜キティ博士もわしも、誕生日が迫っている事には気付いていたが、 迷っていたんじゃ、お前達に教えるのを。緊迫しているギララ星系で、 お前達が羽目を外し過ぎやしないかとな。じゃが、今日の定時連絡の時、 オーロラ姫が無理しているように見えてなあ…」 ドッジ助教授は気の毒そうな顔だ。 「そうですね。ここ2、3日は静かなんですが、その前は連日のようにギューマ ・ラセツ軍団の奴等に襲われて、姫も疲れているんだと思います」 ジョーゴが言って、クーゴもハッカも頷いている。 はっきりと態度に出さなくても、オーロラ姫が緊張していたり、疲れているのは、 キティ博士やクーゴ達には分かるのだ。 「それで、こんな時こそ、何か楽しいことでもやって、少しでもオーロラ姫の 心が休まればと思ってな。お前達に頼むんじゃ」 「楽しいこと、バースデーパーティですね!」 クーゴが張り切る。 「そうじゃ。当日はキティ博士もお祝いの通信をすると言っているが、 それまでは、姫に悟られないようにな」 「分かってますよお。姫をビックリさせたいもんなあ」 ハッカが楽しそうに言う。 「ただし、あまり調子に乗り過ぎて、度を越すんじゃないぞ」 「大丈夫です。敵には細心の注意を払って、危険にならないようにして、 パーティを開く事にしますから」 ジョーゴは落ち着いた態度である。 「では、頼んだぞ」 ドッジ助教授は安心したような表情になった。 「おい、ジョーゴ。まだ見つかんないのかあ?」 ハッカがシートに座って、じれったそうに言う。 「まあ、待てよ」 コスモス号の情報コンピューターとにらめっこしながら、ジョーゴが答える。 オーロラ姫の誕生日を聞いた三人は、寝るのも忘れて、パーティの段取りを 考えた。 コスモス号の中じゃなくて、外で新鮮な空気を吸いながら、自然の中で パーティを開きたい。 三人の意見が一致して、今、空気があって、美しくて、コスモス号の軌道上に ある星を探していた。 「ギャラクシーエネルギーが弱まっている今、美しい星を見つけるのは、 難しいんだ」 ジョーゴが付け加える。 「そうだよなあ。この間の、ラブリー星のような星があればいいのになあ」 「あっても、やっぱりギューマ・ラセツ軍団の支配下にあるかもしれないぜ。 慎重に調べないとな。なあ、ジョーゴ」 クーゴがハッカの隣に座って、頭の後ろで手を組んだ格好でいる。 「ああ。もうちょっと待ってくれよ、ハッカ」 ジョーゴがハッカに優しく微笑んで言った。 「そっかあ…ところで俺の誕生日は4月25日なんだけどさ、ジョーゴは いつだ?」 「俺か?俺は…2月17日」 ジョーゴはハッカから視線を逸らし、コンピューターを見つめたまま答えた。 「えっ」 「10日も前じゃねえか。何で早く言わなかったんだよ」 クーゴが驚いて、ジョーゴの方を向いた。 「そうだよお」 「ころっと忘れてた。と言うより、戦い続きだっただろう。思い出す暇が なかった」 「じゃあさ、ジョーゴの誕生日も一緒にお祝いしようぜ。なっ。いいだろ、 クーゴ?」 「もちろんさ」 そこでジョーゴは二人の方を向いた。 「嬉しいが、メインはオーロラ姫の誕生日だ。俺の事は気にするな」 ジョーゴがウインクをする。 「いやあ、俺の誕生日も祝って欲しいから、ジョーゴも祝ってやるって」 「調子良いな、ハッカ。お前は4月25日ね。覚えておくよ」 苦笑しながら、ジョーゴは電卓にハッカの誕生日を入力した。 「でさ、クーゴは?」 ハッカが無邪気に訊ねる。 「俺はさ、たぶん、3月30日」 クーゴは伏目がちだ。 「たぶんってのは、なんだよ?」 不思議そうにハッカが訊く。 「ほら、俺は赤ん坊の時に捨てられただろ。俺は警察に保護されて、まず医療 機関に送られて、診断を受けたんだ。健康状態とか。その時の調査で、生ま れたのは3月30日午前0時5分っていう結果が出たんだ。誤差は±1分だそうだ。 でも確かな事は分からないからさ、たぶんそうだろうってな」 「…ごめんな、クーゴ」 ハッカが本当に申し訳なさそうに謝っている。 「なーに謝ってんだよ。診断を受けた後、俺は施設に預けられて、そこで 誕生日を聞かされてるから、今更どうってことはねえよ。気にすんなって」 クーゴは肘でハッカの腕を小突く。 「誤差が±1分ね…そうに違いない。3月30日だ」 ジョーゴが電卓で計算して、断言した。 「ジョーゴに言われると間違いないって気がしてくるな。サンキュー」 とクーゴが言った時、コンピューターからテープ紙が出て来た。 「おっ、回答が出たぜ」 ジョーゴが紙を手に取って、クーゴもハッカも注目する。 「……地球型の惑星が一つあった。このまま行けば、ちょうど3月2日あたり にそこへ着く」 「やったじゃーん!」 ハッカが嬉しそうである。 「このまま順調に進めばの話だ。それから、今この近くには小惑星があるん だが、これまでの傾向を考えると、前線基地がある可能性も示唆している。 小惑星周辺を通るのは明日の今頃だ」 「ええ〜」 今度は顔をしかめるハッカ。 「前線基地なんかがあったら、何か作戦を立てて、奴等は襲ってくるよな」 クーゴが真剣な表情をする。 「楽しい事がある時に限って、邪魔ってのは入るんだよな〜」 当然ギューマ・ラセツ軍団が襲って来ると決めつけて、ハッカは口を尖らせている。 「この2、3日が静かな分、後が恐いよな。攻撃を避けるために迂回していたら、 その地球型惑星に到着するのも遅れそうだし。どうする?ジョーゴ」 クーゴは、なんとしても3月2日に、その地球型惑星でパーティを開きたいと思った。 それはハッカとジョーゴも同じ気持ちである。 ジョーゴは電卓で計算してから言った。 「本当に前線基地があったら、色々と揃っているだろうから、それが利用出来て 都合が良いとも言える」 「え?利用するって、何を?」 思ってもみないことを言われて、クーゴは面食らう。 「それを確保したいが、こっちから仕掛けるのはなあ。姫も無益な戦いは許さ ないしな」 「だから、何を確保して利用するんだよ」 「3月2日だけでも、奴等を攪乱させるために、色々とな。コスモス号にも 搭載されているが、予備は残して置かなきゃいけないし、節約のために前線 基地から頂戴したいものだが」 「だーかーら。勿体ぶってないで、言えよ」 オーロラ姫が聞いているわけでもないのに、ジョーゴはクーゴとハッカに ひそひそと耳打ちした。 「なるほどな」 クーゴが感心している。 「まあ、本当は基地がなければないに越したことはないんだ。奴等も2日まで 大人しくしていてくれれば、それが一番良い」 「そりゃあ、戦闘にならないことが一番いいよ。でも、もし、非常事態になっ たらさ〜」 ハッカは不安そうである。 「備えあれば憂いなし。もし基地に遭遇したら、ジョーゴの作戦でやってみるか」 クーゴが安心させるようにハッカの背中を叩いて、作戦実行は決定のようである。 「この作戦は、今回限りしか通じないと思うぞ」 「充分さ。2日いっぱい、奴等から目をくらます事が出来ればさ」 クーゴがウインクする。 「それじゃ、もし戦闘になったら、姫を守るのはお前達に任せるぜ。俺は単独 行動になるが…」 「分かった。ジョーゴ、気をつけろよ」 クーゴがジョーゴの肩に手を置く。 「ああ。で、肝心のパーティの内容の方はどうする」 「それそれ。姫の好きな食べ物をいっぱい揃えて〜…」 楽しい計画を立てるのはしばらく続いた。
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●2003・07・29更新

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