「ＰＡＲＴＹ」＜３／４＞
クィーンコスモス号が惑星に着いたと同時に、オーロラ姫に、キティ博士から
の定時連絡が入った。
「オーロラ姫。今日はあなたの誕生日ですね」
「まあ…！すっかり忘れていました」
「１９才の誕生日、おめでとう、オーロラ姫」
キティ博士がとても優しい顔をしている。
「ありがとうございます、キティ博士」
オーロラ姫の瞳が見る見る潤み、涙が零れる。
「そんなに泣く事はないでしょう」
「１８才になって間もなくの時に地球を旅立って、ここまで来たかと思うと…」
「そうですね。よく頑張っていますね、オーロラ姫。でも、まだ、旅は続くのですよ」
「はい…！」
オーロラ姫は瞳を潤ませながらも、しっかりと答えた。
「クーゴさんとジョーゴさんはどうしたのですか？」
キティ博士との通信を終え、オーロラ姫がリビングルームに来ると、そわそわ
しているハッカしかいなかった。
「あ、二人はこの星を調べて来るって出て行ったよ」
「そうですか。ハッカさん、落ち着かないようですが、どうかしたのですか？」
「い、いや〜何でもないんだ」
パーティの準備をしたいが、オーロラ姫に気付かれないようにするには、どう
したらいいかと、ハッカはずっと考えていた。
「えーと、それよりさ、姫。この星が安全なら、お昼はさ、外で食べない？」
「そうですね。外で新鮮な空気を吸いながらお食事をするのもいいですね。
では、準備しておきましょうか」
「ああ、いいよいいよ。俺がやっておくから。姫はコスモス号の中にいてよ。
安全と分かったら、呼びに来るから」
「……じゃあ、ハッカさん、お願いします」
オーロラ姫は少し考えて、ハッカに甘える事にした。
ハッカはオーロラ姫を部屋へ行かせる事に成功して、張り切って、早速外に、
テーブルと椅子を４脚並べた。
そして準備してあるパーティのご馳走を持って来ようと、コスモス号に戻ろう
として、気付いた。
「綺麗な花が咲いてるなあ。そうだ、姫へのプレゼントにしよう！」
ハッカはコスモス号の近くに咲いている、可愛いピンクの花に手を伸ばした。
オーロラ姫は部屋で読みかけの本を読み始めた。
しかし、文章が頭に入って来ない。
本を閉じて、オーロラ姫はため息を吐いた。
ここ数日の、クーゴ達の様子が変だと思い始めていた。
毎日のように誰かが偵察に行って。
今もクーゴさんとジョーゴさんが出かけている。調査は大切なことだけれど。
まさか偵察のせいではないと思うけれど、三人とも眠そうな時があって、昼の
時間帯でも誰かが仮眠を取ったりして。
ギューマ軍団やラセツ軍団の相次ぐ攻撃で、みんな疲れているのでは。
私を気遣って、私には部屋で休むように勧めてくれるけれど、みんなにも充分
に休息を取って欲しい。この惑星で、数日のんびりしようかしら。
早くギララ星系を抜けて、大王星に急ぎたいけれど、みんなが疲労してしまっ
てはいけない。
昼食の時に、話してみようかしら。
さっきキティ博士には、今日中には飛び立ちますとは言ったけれど。
キティ博士……。
オーロラ姫はキティ博士との通信を思い出して、また涙を零した。
『１９才の誕生日、おめでとう、オーロラ姫』
とても嬉しかった。毎年誕生日を祝ってもらっていたけれど、今日は今までに
なくとても嬉しかった。
もう直接は会えないキティ博士。
もしかしたら、誕生日を祝ってくれるのは、今日で最後になるかもしれない。
そう思うと。
オーロラ姫は細い指で涙を拭った。
こんな顔をしていると、またみんなに心配をかけてしまう。
そうだわ。自分から言うのも恥ずかしいけれど、今日が私の誕生日って、
みんなに伝えようかしら。
ささやかでも、みんなと楽しく過ごせたら、それでいい。
オーロラ姫は明るい気持ちになった。
クーゴは調査を終えて、砂浜を歩いていた。何かを探している感じである。
「う〜ん……おっ、これ、いいかもなあ！」
手に取ったのは、赤いガラス玉。ルビーみたいである。
「お、こっちにも。一つは姫に、一つは俺が持ってて、お揃いってか？へへ」
クーゴは一人で言って、一人で照れている。
と、ザバッと目の前の海から、スターカッパーが現われた。
「なーにをやってるんだ、クーゴ」
ジョーゴがにやにやしている。
「ジョ、ジョーゴ、この海にいたのかよ」
クーゴはガラス玉を持っている手を背に隠した。
「んん〜？姫へのプレゼントを探していたのか？抜けがけはいけねえなあ」
ジョーゴはクーゴに向かって歩いて来る。
「うるせえなー。そっちこそ、海の中でプレゼントになるものを探していたん
じゃねえのかよ」
「はっはっは。その通りだ。だが、なかった。珊瑚でもあればと思ったが、
全然見つからない。見つけても、珊瑚を取るのは、姫に怒られそうだしな。
やめた」
「海の生き物はいたのか？」
「それもいない。この星には、植物しか生息していないようだな」
「そうか…まあ、基地とかがないのが、せめてもの救いだよな」
「ああ。おっ、これは！」
ジョーゴが足元にあるものを拾った。
それは青いガラス玉。サファイヤみたいに見える。
「あちゃー…」
同じような物をプレゼントに選ばれそうで、クーゴは額に手を当てた。
「……なあ、クーゴ。抜けがけはやめて、俺達三人からのプレゼントにしないか？」
「……そうだな、そうすっか」
贈りたい物を買える状況ではないし、ここはジョーゴの提案に乗る事にする。
「それじゃあ、と…おお、あったあった」
ジョーゴは今度は緑のガラス玉を見つけた。エメラルドのような。
「これで、ブレスレットでも作るか」
「いいけどさ、もう一つずつ見つけろよ。三つだけじゃ寂しいな」
クーゴは二つ見つけた赤い玉を見せた。
「なるほど、そうか」
なんとか赤、青、緑のガラス玉が二つずつ揃った。
「俺達が手作りするんだ。姫は喜んでくれると思うぜ」
「だと嬉しいな。あ、ジョーゴ。そろそろ戻ってパーティの準備をしないと」
急いで戻ったクーゴとジョーゴが見たのは、外に出したテーブルの傍に座り込んで、
がっくりと頭を垂れているハッカだった。
「どうしたんだよ、ハッカ」
「……花が枯れた……」
「あん？」
見ると、ハッカの傍に、枯れた花が散乱している。
「どうしたんだ？これは」
「姫に花をプレゼントしようと思って…でも、抜いた途端に、枯れちまったんだあ…」
「抜いた途端に？」
「ふ〜む……」
ジョーゴが電卓で計算している。
「これもギャラクシーエネルギーが弱まったせいの、不思議な現象か？咲いて
いる時はいいが、手折るとすぐに枯れるようだ」
「そうか……せっかく、姫にプレゼントしようと思ったのに……」
「ハッカ、そう落ち込むなよ。あのさ、俺達三人からってことで、プレゼントしないか？」
クーゴがハッカを慰めるように言う。
「うん？」
「これだよ」
クーゴが差し出したのは、さっき拾ったガラス玉。
「ブレスレットにしようと思うんだ」
「へえ、そうかあ…」
「時間がない、早速作るぞ。あ〜、革ひもなんて、あったかな……あるある。
俺が持ってるんだ。たぶん、スターカッパーの中に…」
「なんでお前が持ってんだ？」
「その話は後だ」
「じゃあ、ひもを通す穴を開けるのは、どうすんだよ」
「工具箱出して来い」
「あのさ〜、姫はお前達の報告を待ってると思うんだよな〜」
「そうか、いつまでも待たせると、変に思うよな」
「とりあえずさ、ご馳走を並べて〜」
「よし、ハッカ、そうしてくれ。あ、姫！？」
「え！？」
驚く三人の前に、タラップからオーロラ姫が降りて来た。
「クーゴさん、ジョーゴさん、お帰りなさい。どうでしたか？」
「はい。生物はいないようですが、地球と同じ酸素があるので、新鮮な空気で
呼吸出来ます。基地などはありませんから、この星は安全ですよ」
努めて冷静にジョーゴが報告する。
「そうですか。ではこの星でのんびり…」
「姫！着替えてはどうでしょう？」
ジョーゴがオーロラ姫の話を遮って言う。冷静さがどこかに行って焦っていた。
「は？」
「あ、そうだよお。今からお昼の用意するからさあ、その間に着替えて来てよ。
リラックスしてお食事〜♪ってさ、ね、姫」
オーロラ姫はスペースドレスのままであった。
「そうですね…分かりました」
オーロラ姫はどことなく寂しげに微笑んで、またタラップを上がった。
「俺とハッカは食事を持って来る。クーゴは工具箱だ」
三人は急いで、けれど途中でオーロラ姫に悟られないようにしながら、行動に移った。
やっぱり、みんなの態度は変だわ。
オーロラ姫は着替えながらそう思った。
クーゴさん。何か隠していたみたい。何も言わないで、ずっと手を後ろにやっ
て私の視線を気にしていた。
ジョーゴさん。私の話を最後まで聞いてくれないなんて。初めてかしら。
ハッカさん。自分でするって言ってばかりで、私には何もさせてくれない。
私だって手伝いたいのに。
さっきは明るくなった気持ちが、だんだん沈んで来た。
せっかくの誕生日なのに。
オーロラ姫は自分の姿をスタンドミラーに映した。
良く着ているお気に入りの、ピンクの肩出しドレス姿が、どこか寂しげに映っ
ている。オーロラ姫は深いため息を吐いた。
すぐにみんなのもとへ行くのは、躊躇われた。
オーロラ姫はしばらくミラーの前に佇んでいた。
ジョーゴが青のガラス玉に素早く穴を開けた。
「ジョーゴって、器用だなあ」
ハッカは苦心しながら、緑のガラス玉に穴を開けている。
「妹が手作りアクセサリーとか作っていたからな。見様見真似さ。この革ひもは
髪を纏める時のやつだが、あまり使わないんでな」
と革ひもはブレスレットに使うらしい。
「いいのかあ？妹さんが作ってくれたんじゃないの？」
「ビーズが付いてたしなあ」
と言いながらも、クーゴは穴を開けた赤のガラス玉に、遠慮なくひもを通した。
「いや、これは俺が自分で作った。暇つぶしに作ったんじゃないかな、覚えてないが」
「とかなんとか。俺がサイボーグ訓練所にいた時、やっぱり手作りが得意な奴がいたぜ。
手作りポシェットとか、女の子に作ってプレゼントして喜ばれたみたいだな。
そいつ、結構モテてたみたいだぜ。ジョーゴも案外、女の子へのアプローチで
色々作ってたとかさ」
「そうそう、それでジョーゴもモテたんじゃないのお？」
「別に。俺はオーロラ姫一筋さ」
すべてのガラス玉にひもが通り、ジョーゴが結んでブレスレットの形にする。
「よし、出来た！」
「あ、姫だ」
オーロラ姫が俯きがちにタラップを降りて来た。
さあ、打ち合わせ通りに始めよう。
「いいか？せーの」
クーゴが小声で言って、
「オーロラ姫、誕生日おめでとう！！」
三人揃って大きな声で言う。
「え！？」
オーロラ姫はびっくりして、顔を上げた。
三人がテーブルの前で、にこにことオーロラ姫を迎えている。
「みなさん…私の誕生日を知っていたのですか…？」
目を見開いて、驚きを隠せないオーロラ姫。その表情も可愛い。
三人は頷いて「happy birthday to you〜♪」と歌い出した。
歌いながら横にずれると、テーブルの上に、ろうそくが立てられたケーキが。
クーゴが１９本のろうそくに火を点して行く。
オーロラ姫の瞳が潤んで来た。
三人が歌い終わると、オーロラ姫は微笑んで、ろうそくの火を吹き消した。
「姫、おめでとう！！」
三人が拍手をする。
「ありがとう。クーゴさん、ハッカさん、ジョーゴさん」
そして腑に落ちた。
「みなさん、私に内緒で、準備していたのですね。それで、寝不足だったの
ですか？」
さっきの態度も、そういう事だったのだとオーロラ姫はほっとした。
「ははは、そうですね」
ジョーゴが笑う。
「それから、姫。これは、俺達三人からのプレゼントなんだ」
クーゴが出来上がったばかりのブレスレットを差し出す。
「まあ…綺麗なブレスレットですね。ありがとう」
オーロラ姫が嬉しそうに微笑んで受け取り、早速左腕に着けた。
「あのさ、正直に言うと、それはガラス玉で、この星で見つけたんだ。でもね、
俺達が作ったんだよ。本物のアクセサリーとは違って、ちょっと大きさも
不揃いだし、見た目はあまり良くないかもしれないけど…」
クーゴが頭を掻きつつ言った。
正直に言うことにしたのは、みんなで決めたことだった。
「いいえ、そんなことはありません。とても素敵なプレゼントです。これは、
宇宙に一つしかないブレスレットですね。手作りだなんて、嬉しいわ。
みなさんの心がこもっていて、私、感激しています。本当にありがとう。
大事にしますよ」
オーロラ姫が再び瞳を潤ませて、一人一人の目を見て、話す。
「姫…！」
オーロラ姫に喜んでもらえて、三人も胸が一杯になる。
「じゃあ、乾杯しようか」
と言っても、オレンジジュースでなのだが。
「あ、待てよ、クーゴ。ねえ、姫。実はさ、ジョーゴの誕生日が２月１７日
だったんだって。もう過ぎちゃったけど、一緒にお祝いしてもいい？」
「まあ、そうだったのですか。もちろん、構いませんよ。ジョーゴさん、
誕生日おめでとう」
「いやあ…」
ジョーゴが照れている。
「そうだわ。みなさん、少し待っていてくれますか？」
「はい…？」
オーロラ姫は急いでタラップを上がった。
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●２００３・０７・２９更新
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