1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        



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スタジン小説 その19





「Q.E.D. 〜斯くの如くして先の命題を……〜」   作・み〜め

Hypothesis ……IN CASE OF …… 立てられた仮説は、答を導くための手立て。 しかしながら……それは時として、自由な思考を妨げる。 「あの馬鹿、まだ、フラフラ遊んでやがんのか?しようがねえなぁ、んとに!」 久々に大王星へやって来たハッカが、いて当然の面子が 1人欠けている事に気づき、呆れた様に声をあげた。 横に座っていたジョーゴが、「しまった!」とばかりに眉を顰める。 姫の所に来る前に、そのことは今、禁句になっていることを 伝えておくべきだったと後悔するが後の祭り。 「あ〜、それより、ハッカ。泥の惑星の様子は、どうなんだ? 人口冬眠していた人々も、殆ど目を覚ましたと聞いているが……」 無理矢理話題を転換し、こっそり姫の様子を窺う。 とりあえず、穏やかな笑みは変わらない。 「おおっ!そうそう、それを報告に来たんだ。 ついこの間、最後の1人が目を覚まして、本当に全員一丸となって、 惑星復興に取り組んでるって、長老が、姫にくれぐれも宜しくって、 言ってましたよ。っと、コレで今回の任務終了!んじゃ、いただきま〜す!」 それでも遠慮していたのか、報告が終わるまでは、 目の前の食べ物に手を出さなかったのが、ハッカの進歩? 『呑気でいいよ、ホントにこいつは〜』と、心の中で突っ込んでから、 一安心したのも束の間、お腹が重くなると、口の方が軽くなるらしい。 「そ〜いや、泥の惑星で発見されたアレって、結局なんだったんだ?」 「……さあ、何でしたのでしょう……女王様に、お渡ししたきり、 何も窺っておりませんから……ジョーゴさんは、ご存知ですか?」 「……いえ、俺も、解析には関わっていませんから……さっぱり……」 ハッカの言うアレとは、半年前に、泥の惑星で発掘された謎の物体のことである。 発掘されたと言っても、太古の地層などから発見されたものではなく、 年代的には、全く新しい時代のもので、推定100年。 泥の惑星が、まだ、泥に埋まる以前のことらしい。 そこで発見されたものが、何故、大王星へ運ばれたかと言うと、 その物体の表面に、大王星の宮殿の紋章と同じ印が刻まれていたからである。 大きさにして僅か10センチ四方程の立方体。特殊加工の合金で出来ており、 何かを収めるカプセルのような役割を果たしているのだろうが、 どうしても開ける事が出来ない。 そうこうしているうちに、紋章に気づいた長老が、それをハッカに託し、 大王星へと持ち込まれたのだ。 オーロラ姫から、先代の女王へと渡り、それは今も、彼女の元にある筈だが、 その正体については、まだ知らされていない。 「あ〜!何かよ〜、わからねぇって言うのは、どうもスッキリしなくって いけねえや。ど〜して、もう、スパーッといかねえかなぁ! そ〜いや、クーゴと会ったんも、あれ以来か。 ホント、こっちも、わからなくていけね〜や。」 いつの間にか、話が戻って、コレでは元の木阿弥に……。 焦ったジョーゴが、ゴホンと咳をしたところで、 ハッカが、がははっと笑い出した。 「姫〜、俺、長老から、ちょこっと休みもらえたから、 暫くここにいてい〜よな。小難しい薀蓄ばっかたれるキザ男の顔も 見飽きただろ。」 「まあ、ハッカさんたら。でも、嬉しいですわ。 綺麗になった泥の惑星のお話など、ぜひ聞かせてくださいね。」 伏目がちになっていた姫の顔に、笑顔が戻った。 『結局、お気楽なコイツが、一番の大物なのかも…』と、 ジョーゴは、ほっと胸を撫で下ろす。 それにしてもだ。どうも気になる事が、いくつもありすぎる。 何か嫌な事が起きねば良いがと、つい悲観的になってしまう。 ずっと遠慮していたが、キティ博士に、確かめる必要がある。 クーゴの行方を知っているか、と。 はなから答に期待していない。が、判断は出来る筈。 知っていると判れば、探す方法はある。 我慢にも限界がある。 ハッカが姫の気を紛らわしている間に、事が運べたら…… ジョーゴの気持ちは固まっていた。 「……当てのない旅なら、星界の果てへ行ってくれませんか……」 女王のその言葉だけを頼りに、クーゴは、星の海を飛び続けていた。 どれほどの時が経ったのか、考えることもないほどに、ただひたすら…… 例えば、地図を描くにも、いろいろな方法がある。 地図の中心をどこにするかと、地図の基点をどこにするかでは、 同じ世界でも、全く違ったものになる。 一般的な銀河星系図の中心は、大王星。 大王星をぐるりと取り囲むその地図においては、 地球なども、星界の果ての1つに属しているかもしれない。 しかし、別の観点……大王星を銀河の基点と考えた場合はどうだろう。 そこから最も遠い場所は……限定されるのではないだろうか。 今のクーゴは、根拠のない漠然とした考えだけに突き動かされていた。 過酷な旅が終わりを告げ、平和な世界に手が届くようになった時、 クーゴは、自分の居場所を見失っていた。 命を賭けて戦い続けてきた事が、彼の中で突然リセットされてしまったのだ。 「……成すべき事をなさい……貴方はもう、自由です。」 混乱していたクーゴに、キティ博士の言葉は、更なる打撃となった。 あれほど望んでいた自由が、彼には酷く重かった。 「……俺に出来る事は……もう、たった一つしかない……」 そう結論し、大王星を出奔しようとした彼に、先代の女王は言ったのだ。 ある物をクーゴに託し、星界の果てに行って欲しいと。 「……この箱を開けることが出来る人を連れて来て欲しいのです……」 そう言って彼女が差し出したのは、 ハッカが泥の惑星から持って来た小さな物体だった。 「……これはこの星の大事な物なのでは?俺に預けていいんですか? 必ず連れて帰りますから、これは女王様に持っていていただく訳には いかないのですか。」 美しい光を放つ箱を訝しげに見つめながら、クーゴが問い返した。 「……その人自らに、持って来て欲しいのです…… 我侭を言うと思うでしょうね。でも、どうしても、 私の目の前でこれを開けて欲しいのです。」 「……わかりました。お預かりします。で、誰を連れてこいというのですか?」 「ありがとう。クーゴ。……貴方には、すぐに判るはず…… その人は、未来の貴方……」 「……!!……未来の俺?……」 「……そう……同じ命題を同じ仮説で証明したら…… 導かれる答はどうなるでしょうか……」 「……?……」 「総てを語るのは後日、貴方の帰還の時としましょう。」 老いて尚、美しさと威厳を失わない先代の女王。 何故、彼女は、これ程までに己を律せるのか。 信念という言葉では、到底言い尽くせない。 そんな彼女の願いをどうしても叶えてやりたい。いや、叶えなくてはならない。 だから……この星へ来た道を、今度は逆に辿って行こう。 辿って辿って、やがて、始まりの母星をも越えて…… 果ては……確かに在った。 そして………そこで待っていたのは…… 「……100年……もう逃げるのも、些か疲れたところだ…… この勝負は、俺の負けだな……」 銀河で一番の愚かで間抜けな……しかし、この上もなく愛すべき逃亡者であった。 前提……仮説とは、望む答を導くために選ばれる。 請われるままに……在るべくように……
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