「Q.E.D. 〜斯くの如くして先の命題を……〜」 作・み〜め
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Proposition
提示された命題は、難問中の難問。
解明する手掛かりを見出せないまま、
時は……悪戯に流れた。
「ジョーゴ、GD167回路の出力は?」
「52.3パーセント。正常な作動を保つには、ギリギリってとこですね、
キティ博士。 出力低下の原因は、基盤の老朽化です。」
「それでは、ポイントVL242を一時停止して、新型の基盤に交換して
ください。暫く、それで様子をみましょう。」
「了解!」
大王星のライフラインを司るメインコンピューターは、驚くべきことに
1世紀近くも前のシステムで作動していた。
ギャラクシーエネルギーの弱まりを、もっと早いうちに警告できなかったのも、
充分な対処が出来なかったのも、それが、一因だったかもしれない。
新しい女王、オーロラの力を遍く生かすためには、旧システムでは、荷が重い。
銀河の安定のためにもコンピューターのシステムアップは、必要不可欠な事項である。
ジョーゴは、キティ博士の助手として、大王星の宮殿で、
コンピューターの整備に日々奮闘していた。
「……あ〜あ、本当は、全部新品に取替えちまう方が、
てっとり早いんだがな……っと、コレは、言わない約束だっけ……」
何とか無事に部品の取り付けを終了したジョーゴが、
はあっと溜息をつきながら呟いた。
システムアップに着手して、早半年、遅々として進まない作業に些か疲れてきた。
博士とドッジ助教授、そして、ジョーゴの3人だけで整備するには、
あまりにも巨大なシステム。
せめて、あと5人……いや、優秀なエンジニアなら2人いてくれたら、
もっと速やかに作業は進むのにと、ついつい、あらぬ望みが脳裏に浮かぶ。
しかし、今の時点で、身元の不確かな者をこの宮殿の心臓部に立ち入らせる事は、
あまりにもリスクが大きい。それほどに銀河は、まだ、混沌としている。
「……それにしても、100年も前に、このシステムを作り上げた人物には、
敬意を越えて、驚愕の意を表したいぜ。その頭脳にもだが、信念と執念には、
戦慄すら感じる……姫が、新しい宮殿の建設を固辞するのも解る気がするよ。」
目の前に広がる迷路のような基盤を眺めながら、過去の偉大な科学者に想いを馳せる。
銀河の全てのために……いや、もしかしたら、……
たった1人の女王(ひと)を守るためだけに、この宮殿は、作られたのかもしれない。
そう思うと、弱音を吐いてはいられない。
自分の為すべきことを今は全力でするしかない。
……が、しかしである……
「……メカは、修理すればいい。それですむ。……けどなあ、人の心は……」
キティ博士の待つメインコンピュータールームに戻りながら、
ジョーゴは、ふと空を見上げた。宮殿の窓から見る空は、
どこまでも蒼く澄み切っている。
その色は、あまりにも美しく、オーロラ姫の瞳の色を思わせる。
なぜか、切なさが胸を刺した。
「……馬鹿野郎……帰って来たら、ただじゃおかないぞ……」
『平和なここじゃ、俺は用無しだ。ジョーゴ、後は任せたぜ。』
止める間もなく飛び出して行ったきり、音沙汰もない、アイツ。
一体どこを放浪っているのか。
まさか、外宇宙へまでは飛び出していないだろうが……。
「……戦うためだけに姫の側にいたと本気で思っているのか……
クーゴ……今の姫を見せてやりたい。
これが、お前の望んだ姫の姿とは、俺には到底思えない……」
銀河の平和のために、オーロラ姫は健気としか言いようがないほどに、
心を尽くしている。
その甲斐あって復興は、驚くほどのスピードで進んでいるのだが……。
「こんな結末のために、姿を消したのだとしたら……俺は、一生、お前を許さない。」
吐き出した言葉が、虚しく空に響く。
どこで間違えてしまったのだろう。
どこから……やり直せばいいのだろう。
There are too many ifs in the theory.
気づかぬ振りで、目を閉ざすのは容易い。
だが、限りは必ず訪れる……
やがて……止めることも叶わず、ゆるゆると闇が綻ぶ。
総てを……彼等の、優しい嘘さえ……露呈しながら。
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