1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        




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スタジン小説 その34 第4回(全5話)





「カナリヤ」   作・みなこ

ガラム星系第4番目の惑星は、ラダン星だ。 この星が、ギャラクシーエネルギーが衰えた時に受けた被害は かなり深刻なものだった。 青緑に輝く空は灰色一色となり、怪鳥が舞い、人々を襲った。 木々や山々は枯れ果て、水辺は干上がり、多くの者がここから 脱出することを試みて失敗し、命を落とした。 そんな中、何とか窮地を逃れて生きて来た姉妹が居た。 姉のレーナは13歳、妹のキリルは9歳。 父はモンスターを防ぐために戦って死に、母は姉妹をかばって モンスターに殺された。 今、ラダン星には、穏やかな平和が復活し、青緑の空と、 豊かな自然が甦り、新しく復興のための努力が続けられている 真っ最中だった。 ケディはこまめに星のデータを取り、キティ博士に報告をしている。 問題点はまだ有るが、やりがいのあることだし、頑張ろうという 気になって来る。 クーゴは今日は力仕事に精を入れている。 アストロザンダーを巧みに駆使し、新しい道を造って行く。 皆して手分けして、この星を住み易く、美しくして行こうという意欲に 燃えている時だった。 遠くから少女の叫び声が響いて来た。 クーゴは作業の手を止め、声のする方角を真摯な顔で振り返った。 「どうした、何があったんだ!?」 言ったそばから、クーゴは飛び出して行った。 「スタークロー!!」 腕をかざすと、真っ先にスタークローはやって来た。 クーゴは勇ましく飛び乗ると、悲鳴の上がった方へと向かう。 すぐ横を、ケディも並んで飛んでいた。 先刻までの好天が、気付くと真っ黒な空模様になっており、雲の奥で 雷鳴が轟き出した。 山の麓へ二人は辿り着く。 「どうしたんだー!?大丈夫かー!!」 確かにこの谷からまるでこだまのようにして、少女の悲鳴が届いた。 ここに間違いない、そうクーゴは確信して探し回った。 すると、ケディが顔色を変えて、ある地点を目掛け飛んで行く。 「あっ、おいケディ!」 クーゴも咄嗟にケディを追う。 ケディの向かったところ、崖の端の切り立った場所に、 少女がひとりで谷底を食い入るように凝視して座り込んでいた。 スターシークの窓が開いて、ケディの長い黒髪が、ヘルメットの 下から大袈裟に風に舞う。気をつけながら少女のそばまで寄り、 その崖から救出を試みようとしている。 「大丈夫。怖くないから私の手に捕まりなさい」 ケディの声は優しいお姉さんになっていた。 少女は怯え、震えながらも健気に言った。 「駄目。妹が・・・妹が、落ちちゃったの」 そう言った途端、少女の瞳からどっと涙が溢れ出す。 ケディの目の色が鋭くなり、少女の指差す下方を睨んだ。 見ると、30m程先、崖の途中の木の根元に、もう一人少女が 横たわっている。 上手い具合に落ちたらしい。息はあるのか? ケディは姉の少女のほうを振り返り、微笑んで見せた。 「大丈夫。きっと大丈夫だよ。今、救い出してくるから、おとなしく そこで待ってて」 ケディは上空にやって来たクーゴを見上げ、言い放った。 「この子は任せた!私は下に倒れてる子を救いに行く」 「おい待てケディ!俺がその子を引き上げる。お前はこの子を 連れて安全な場所に移動するんだ」 クーゴが体力の差を気遣ってそう申し出たのにもかかわらず、 ケディは聞く耳も持たないで、さっさと下へ降りて行く。 クーゴは仕方なくもう一人の少女をスタークローの操縦席に乗せ、 少し離れた平地に置いて、すぐさまケディの元へ戻った。 ケディは何とか少女を抱きかかえ、スターシークに乗せたところ だった。足場が悪いので危険だ。すぐ戻らなければ。 クーゴは安心した。ケディは女だが、サイボーグになるだけあって 自分に劣らず体力がある。 二人は各自担当を決めて、少女を村へと運んだ。 崖の下へ落ちた妹の方も、打ち所が良く、左足を骨折しただけで 命に別状はなかった。 姉のレーナは、まだ眠ったままの妹のキリルのベッドのそばに ついて、その寝顔を見守っている。 ケディはレーナの肩に手を置いて、励ますように笑った。 「もう心配ない。レーナも休みなさい。ここは私が見ているから」 レーナはケディの方を見て、少しだけはにかみ微笑んだ。 「ありがとうお姉さん、キリルを助けてくれて」 落ち着いてきたら、またレーナの目から安堵の涙がこぼれた。 「いいんだよ。良かったね」 いつものケディとは思えない、本当に優しいお姉さん振りに クーゴも何となく満足気な表情だ。 「だけどレーナ、何であんな危ない崖っ淵になんか居たんだ?」 クーゴは不思議そうに訊ねる。 レーナの顔が一瞬だが翳った。けれど、思い直すように 顔を上げて答えた。 「キリルの大好きな鳥があそこにはいるの。ううん、あそこにしか いないの。キリルはね、お父さんとお母さんが死んで、言葉を なくしてしまったの。でも、大好きな鳥を見ると、笑うのよ。 だから、たくさんいるあの場所に初めて連れて行ってあげたの。 キリルは両手でまるで自分が羽ばたくみたいにして、止める間も なく落ちてしまったの」 レーナは青い瞳からまた涙を流した。 外ではとうとう雨が足早にやって来て、雷も強くなった。 夜も更けて、少し肌寒くなって来る。 部屋の片隅の小さな旧式な暖炉に、クーゴが火を灯した。 安心したようにレーナは眠りに入り、キリルも容態に変化はない。 暖炉のそばに、少し間隔を空けて、クーゴとケディは座った。 ケディは、さっきから押し黙ったまま炎を見ていた。 クーゴは気を遣い、ケディに優しく言う。 「良かったな、二人とも無事で」 ケディはクーゴの方をちらと見たが、すぐまた燃える火に目線を 移す。 何か言いたげな目の色だ。その重い口が開いた。 「宇宙は平和になった。でも、大変なのはこれからだ」 ケディの横顔が、鬱として冴えない。 クーゴはわざと元気な口ぶりで答える。 「俺達がついてるんだから、何とかなるさ。そうだろ?」 ケディの目はそれでも冷ややかだった。 黒い瞳の中に、赤い炎が映っている。 「心の奥の傷は簡単には癒えない。たとえ平和が帰って来ても 取り戻せない時間や人はいる。キリルはまだ声を失ったままだ。 本当の平和は、キリルが元気になることだ」 ケディの言うことはもっともだ。解る。でも。 クーゴはそっと立ち上がって、窓から外の雨だれを見つめた。 ・・・ 歌を忘れたカナリヤは ・・・ 古い古い、昔の日本の童謡。 キティ博士は物知りで、そんなことまで博学だ。 こんな歌があるんですよ、クーゴ。 そう言って、キティ博士はそのカナリヤの歌を教えてくれた。 歌を忘れてしまったカナリヤ。どんなにか哀しいことだろう。 もう一度歌ってもらうために、自分には何が出来るのだろう? キリルが元気になったら。 レーナも一緒に、またあの山へ行って、今度こそちゃんと その大好きだという鳥がたくさん飛んでいる風景を見せて あげたい。 失ったものは決して戻らない。けれど。 新しくやり直す力は、きっと誰にでも備わっている筈。 今すぐでなくても。時間がかかったとしても。 クーゴも、ケディも、それ以上何も語りはしなかったが、お互いに 同じことを感じ、そして考えていたようだった。 クーゴの胸の中にはクーゴの、ケディの胸の中にはケディの、 哀しみも、前向きな思いも、錯綜しながら生まれては消える。 こんなに静かな夜は、久しぶりだった。
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●2003・04・10更新

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