1978年4月2日から1979年8月26日まで 全73話が放映されたテレビアニメ「SF西遊記スタージンガー」のファンクラブです。        




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スタジン小説 その34 第5回(全5話)





「永遠の旅人」   作・みなこ

黄昏が迫って来た。 美しい夕焼け。切なく聞こえてくる蜩の鳴き声。 クーゴは旅の疲れを癒すために、研究所の庭園の草の上に 寝転んで目を閉じ、風に髪をなびかせていた。 春に地球を旅立ったクーゴとケディが、任務を終えてようやく 地球へ戻って来たのは、コスモスの花が咲き出す頃だった。 地球を出た時には、まだまだどちらも馴染めそうにない雰囲気で いたものの、何ヶ月も共に居たのが効果的で、中々格好の 悪友同志といったところまで成長していた。 思えば、ハッカやジョーゴに巡り会い、あれほど迄にお互いを 大事に思える前は、ぶつかり合ってばかりいたのだ。 今となっては懐かしい思い出。まるで学園生活のようだった。 クーゴは、優しく遠い目をして、昔を思い出していた。 姫も変わった。気の強さは初めからだが、旅を経て、本当に 女王らしく凛々しく、芯からひしひしとそれを感じる。 ― 俺はどうなんだろう?変わったのかな?それとも・・・ ― クーゴは自分の中の自分に問い掛けてみたかった。 本当は、誰よりも一番変わったのはクーゴなのだ。 天を見上げると、白い雲が赤く染まりながら、風に流れて行く。 平和だ。穏やかで、心地良い。 とても幸せな筈なのに、会いたい奴らも会いたい人も、ここには いない。何度そう考えて溜息と涙をこぼしたことか。 クーゴは静かに微笑んでみせた。 ― もうそんな俺じゃない。どんなに切なくても、俺は、そして皆、 明日へ進まなきゃいけないんだ ― 本当の強さは、現実から逃げないこと。 クーゴの瞳の中に、綺麗な星があった。 庭園のはずれの人影が、こちらへとやって来るのを確認出来た。 クーゴは上体を少し起こした。見たことがあるようなないような それは? 人影はクーゴに近付く。誰なのか判明した途端、クーゴは仰天する。 光沢のある美しい濃紺のドレス、豊かな黒い髪をサイドだけ残し、 ゆるく後ろでまとめて現れたのは、ケディだった。 クーゴは固まったまま、やっと声を絞り出す。 「・・・ケ、ケディか?」 ケディはまたにやりといつもの笑みを浮かべる。 「当たり前だ、驚いたか」 クーゴはまだ驚いている。素直な男だ。 「へえええ〜。こりゃびっくりしたぜ。一体どうしたってんだ?」 「しょうもない男だなまったく。今夜は私達を労って、キティ博士が パーティを用意してくれてるって言っただろうが」 クーゴは目をぱちくりさせてお茶目な顔をして言う。 「そーか、くつろいでたらすっかり忘れちまったぜ。だがなあ」 クーゴはちょっと渋い顔をする。 「俺、そーいうのあんまり得意じゃねえんだよなあ」 ケディは呆れて、子供をたしなめるように諭す。 「普通のパーティじゃない。私とお前がこの研究所の新しい パートナーとして紹介される場なんだぞ。四の五の言ってる場合か」 クーゴはケディの初めて見る女性的な姿を、黙ったままじっと 見る。その視線にケディは気付き、わざと怒ってみせた。 「じろじろ見るな、クーゴ」 クーゴは弾けたように笑う。 「いやさ、その格好にその言い方ってのも変だが、お前らしくて いいよ、うん」 ケディは、思ってもみないことを言われて絶句した。 踵を返し、去ろうとしながら捨て台詞。 「ドッジ助教授の趣味だ、これは!・・・時間に遅れるな、クーゴ!」 立ち去る背中が怒っている。でも可笑しい。 クーゴは楽しそうに、まだ笑っていた。 宴はまさにたけなわだった。 たくさんの人々が、クーゴとケディを称え、陽気な盛り上がりを 見せている。 キティ博士もいつものユニフォームをやめて、シルクで出来た紫色の、 シックなパンツスーツを着こなしていて、とても似合っていた。 ドッジ助教授も蝶ネクタイが可愛らしいスーツ姿で、ご機嫌に 酔っている。 「ドッジ助教授、ちょっと飲み過ぎですよ」 ケディに水を注されて、それでも懲りずに真っ赤な顔で笑う。 「なになに。ケディも飲みなさい。今日は無礼講だからして」 ケディがドッジ助教授を相手している様子を、離れたところで 並んでキティ博士とクーゴが微笑ましく見ていた。 クーゴも仕方なく黒いスーツを着込んで出席したものの、何だか 落ち着かない感じだ。 キティ博士から贈られたものだが、こそばゆい。 「クーゴ、これからもよろしく頼みますね」 キティ博士はシャンパングラスを傾けながら、クーゴに優しく 言った。耳飾りが揺れ、美しく光る。 クーゴはしっかりとした声で答えた。 「任しといて下さい!」 クーゴの生き生きとした声に、キティ博士は頷いた。 そして、もう一度ケディの方を眺めながら言う。 「ケディは・・・」 クーゴがキティ博士の方を向く。 「あなたの良いパートナーになってくれるでしょう。私は安心して いますよ」 クーゴは落ち着いて答える。 「キティ博士。何も心配ないですよ」 キティ博士は、ケディの方を見たまま続けた。 「彼女は、両親を戦いで失っています。ひとりで行き抜くため、 そして不幸な人達を助けるために、決意してサイボーグになり、 私達のそばで懸命に働いて来てくれた娘です。多少強過ぎる ところはありますが、彼女の良さのひとつですからね」 キティ博士は微笑んだ。 「俺もそう思いますよ」 クーゴも笑った。そして思った。 キティ博士も、ケディも強い女性だ。 そして。そのキティ博士が育てたオーロラ姫も・・・。 会場になっている部屋のバルコニーへと、クーゴは進んで行った。 夜空が眩しいほどの星で輝いている。風も優しい。 バルコニーの端に、先客がいた。 黒髪をなびかせて星空を仰いでいるケディが。 クーゴは黙ったまま、少し間をあけてバルコニーの手すりに寄った。 そのまま深呼吸をして、同じように夜空を見上げる。 ケディがクーゴの方を見た。 そして、すぐ元通り天に目を戻す。 「・・・大王星」 ケディが見上げたままで、呟いた。 クーゴが振り返る。 ケディは笑った。 「美しい星なのだろうな」 向きをくるりと変え、ケディが誰にともなく言う。 「お前が月のドームに閉じ込められていた時も、大王星へ旅立った のも、私は知っていた。キティ博士が大王星に向かっていて不在の 時は、ここを私が守った。毎晩、空を見上げて、いつか私も行って みたいと思った」 クーゴは、ケディの少しやわらかな表情を見つめた。 そして、やはり誰かに似ている、と思わざるを得なかった。 ベラミス。 お前も、大王星に行きたかった筈なんだ。 あんな出会いじゃなく、もっと平和に巡り会えていたとしたら。 いい仲間になれた筈だった。 こうして、ケディといるように、ベラミスと穏やかに語り合いたかった。 同じように苦労して生きて来た者同志、痛みを分かち合えただろう。 いや。でも。 敵対しながら、本当は。分かり合おうとしていたんだ、きっと。 だから。後悔なんかしていない。 残念だったとも思わない。 どんな出会いであったとしても。 ベラミスよ、俺の中では、お前は常にヒーローだ。 いや、ヒロインか、本当は。まあいいか。 俺を食っちまうほどかっこよかったもんな。 クーゴはくすりと笑う。 ケディは不思議そうな、けれどちょっと意地悪な笑みを浮かべた。 「お前がおとなしいと気味が悪い。きっとまたオーロラ姫のことでも 考えてるんだろうが」 クーゴはむきにならず、悪戯っぽい目をしてケディに言った。 「やきもちか?ケディ」 ケディは、呆れたような顔になる。 「・・・バカ者」 クーゴはけらけらと本当に楽しそうに笑い出す。 「しかしなあ、そんなドレス着てる時くらい、もっとこうなんつーか 優しいこと言えないのかねえ」 クーゴがからかうと、ケディも返す。 「やかましい」 どっかで聞いたような口調だ。 クーゴはまた優しい表情になり、再び二人は星空に目を向けた。 この星空のように、遥か彼方へと、二人の夢は続いている。 決して終わらない旅。 でも、どこへ行き、何をしようと。 大王星から愛をもらって、オーロラ姫に皆見守られて、こうして 生きて行く。 クーゴもケディも、キティもドッジも。 ハッカもジョーゴも。 巡り会えて良かったと、素直に思えることが、本当の幸せ。 ベラミスもきっと幸せだったに違いない。 銀河の海は果てしなく、美しく、いつの日もすべてを癒し続ける。 今日も、明日も、ずっと、ずっと。
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          今回で連載は終わりです。みなこさん素敵なお話どうもありがとうございました…。


●2003・04・17更新

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